「ん〜今日も頑張るか〜」

のびーっと身体を思いっきり伸ばす。
するとの前に高級車が一台止まった。

「…?」

一瞬、不審に思ったがすぐにその想いは消え去った。
車から出てきた人物を見て。

「おはよう、さん」
「あ、柚木先輩」

そう、その車に乗車していたのは音楽科三年の柚木だった。






恋愛革命







「大丈夫?そんなに緊張しなくてもうちの車は静かだしそんな乗り物酔いとかしないよ?」
「あ、はぁ…」

何故か登校中に偶然出会った柚木の車に乗せてもらう事になった
あまり柚木と二人で会話する事がない為、少しぎこちない態度になってしまう。

(どーうも変なんだよな…いい人だとは思うけど胡散臭いと言うか…)

チラッと柚木の顔を見ると視線に気付いた柚木がに声をかけた。

「どうかした?さん」
「あ、いえ何でもないです」

がそう答えると柚木はニコッとほほ笑んだ。

「そう、それならいいんだけど…そうだ。さん、最近の調子はどうかな?
君は普通科でそれも初心者だって聞いたけど…大変だよね?」
「まぁ…確かに少し大変ですけど…でもすごく楽しいですよ」
「…………」

その言葉に一瞬、柚木は止まった。
笑顔だった柚木の顔がふっと曇った。

「柚木先輩?」

が名を呼ぶと柚木はいつものようにニコッとほほ笑んだ。

「あぁ、着いたようだよ」

すると車が止まり窓から外を見ると学園だった事が確認できた。
先に柚木は降りそしての方の車のドア開けた。

「さぁ、さん。どうぞ」
「あ、どうも…」

先程のふっと曇った柚木の表情が少し気になった。
しかし学園にについたと同時に周りがざわめいている。
おそらく柚木が来たからだろう。
そんな中、柚木の車から降りる事がすっごく嫌だと感じた。
しかしずっとこの中に居る事も出来ない為、渋々車から降りた。
すると予想通り周りのざわめきが激しくなった。

「ねぇ、あの子どうして柚木様の車から出てきてるの…?」
「本当…それに柚木様にドアまで開けさせて…」

こそこそと聞こえてくる嫌味には嫌な顔一つもしなかった。
むしろ呆れる事しか出来なかった。

(イヤーもうここまで典型的なパターンだとどう対処すればいいのかわかんない…)

「どうかした?もしかして具合でも悪いのかな…?」

心配そうにを見る柚木。
すると更に辺りはざわめいた。

「ゆ、柚木様に心配かけて…なんなのあの子…?」
「と言うよりも柚木様に見つめられるなんて許せないわ…」
「はぁー…いえ、もう大丈夫なんで…送ってくださってありがとうございます。それじゃ、失礼します」

あまりこの場に居続けてはいけないと思いは柚木にお辞儀し普通科の校舎へと向かっていった。
走り去っていくの後姿を見届ける柚木。

『まぁ…確かに少し大変ですけど…でもすごく楽しいですよ』

の言葉がふっと脳裏によぎった。

「…もう少し虐めた方がいいかもな…」

普段の柚木からは想像出来ない表情でニヤッと不適な笑みを浮かべていた。



「ふぅ…」

教室に着くまでの間がある意味地獄だった。
歩くたびに「あの子柚木様と今日登校してきた子よ…」などとこそこそと言われ続けたら流石のも疲れる。

「イヤーすみにおけないね〜ちゃん」
「何が?天羽ちゃん…」

なみなみとした長い髪を一つに束ねてるのが印象的な報道部でのクラスメイトである天羽菜美が声をかけてきた。
一年、二年と同じクラス故に二人は結構、仲がいい。

「何がってもちろん柚木先輩と朝一緒に登校してきてたじゃん」

ニヤニヤと笑いながら手には何故かメモ帳とペンが。
ははぁーっと大きな溜息をつきながら手に持っていたメモ帳とペンを没収した。

「別にたまたまだって。柚木先輩がついでだから乗らないかって言っただけで…」
「なぁーんだ。つまんない」
「つまんなくてごめんなさいね」

棒読みで謝りながら朝にエントランスの売店で購入した紙パックジュースを開けストローに口をつけた。

「でも火原先輩とは仲いいよね」
「ブッ!!!!」

思わず天羽の発言にジュースを吹きかけた。

「わっ!何やってんの?ちゃん」
「な、何やってんのって…そっちがいきなり変な事言い出すから危うくジュース吹くとこだったじゃない…!」

ふぅっと溜息をついてジュースを飲みなおす。

「大体、あたしと火原先輩は特に特別な関係なんかじゃないから」
「じゃあ、さっきの慌てっぷりは?」
「うっ…」

痛い所をつかれてしまった。
あまりにもストレートすぎる天羽の質問の嵐に流石のもつうっと冷や汗が頬を伝った。

「いいじゃなーい。仲がいい事は。だって仲が悪いよりはいいでしょ?」
「そうだけど…あんまりあたしと火原先輩の事他の人に言わないでね。
二人は仲がいいとか。火原先輩に迷惑かけるのだけはなんか嫌だし…」

言いたい事を全て天羽に伝えたは立ち上がった。
そして飲み干したパックジュースの殻を手にした。

「これ捨ててくるね」

そう言いは教室を後にした。

「それが既に特別視してると思うんだけどな〜」

天羽はふぅっと一つ溜息をつきニコッと笑う。
今日もいつもと変わらない日が始まった。
そう誰もが思っていた。



「さってと…練習行かないと…」

ヴァイオリンケースを手にバタバタと教室を後にした。
どこに行こうか迷っている途中にの前に何人かの女子生徒が立ちはだかった。

「ちょっと来て下さる?」
「ん?」

その立ちはだかった何人かの女子生徒は音楽科の先輩達で明らかを睨んでるかのように見ていた。
そして連れて行かれたのは人気の少ない学園裏だった。

「あのー何の用ですか?」

気だるそうには質問するとバンッと音を立て壁を叩いた。
ジッとを睨みつけてくる先輩達。

「貴方…自分が何をしてるのかわかってるのかしら?」
「は?」

まったくは意味がわからなかった。
ただかなり敵意を向けられている事はわかった。

「は?じゃないわよ!貴方!柚木様の何なのよ!?」
「…何って何が?」

次々と何かしら文句を言われるが意味がまったくわからなく少しイラつき始めてた。

「貴方、朝柚木様と登校してたじゃない!」
「本当よ!それに柚木様にドアまで開けさせて!」
「…………」

はその言葉を聞いて呆れる事しか出来なかった。
柚木は元々かなり人気だと言う事を知っていた。
それ故に嫉妬されてるのかと思った。

「別にあれはたまたまでドアも好意で開けて下さっただけで…
と言うよりもう行っていいですか?もうすぐコンクールだしとっとと練習したいですし…」
「ふざけないで!貴方!コンクールに参加してるだけでも許せないのに柚木様にまで迷惑かけて!!」

そろそろ一方的に文句ばっかり言われキレそうになってきた。

「いいかげ「いい加減にしたらどうだ?」」

が文句を言おうとしたら誰かがより先に声を出した。

「…?」

不審に思ったは声の聞こえた方を振り向いた。
するとそこには水色の髪にクールな表情をした男子生徒がやってきた。

「なっ、何よ!」
「先程から声が聞こえてきたんですが一人の後輩に寄って集って理不尽な文句を言うのはどうかと思いますが」
「っ!」

冷たくハッキリと言われ先輩達は言葉を濁した。
そしてまだ彼は言葉を続けた。

「彼女がコンクールに参加したのはそれ相応の実力があってのこそ。参加できなかったのは先輩方の実力不足故なのではないのでしょうか」

あまり言葉にしにくい事をハッキリというとに文句を言っていた先輩達は顔を真っ赤にしてその場から立ち去っていった。
そしてその少年は大きな溜息をつきその場を後にしようとしていた。

「あ、ちょっと!」

は慌てて呼び止めた。
すると少し不機嫌そうな表情で振り返った。

「まだ何か?」
「あ、あのさ…助けてくれてありがとう」
「…礼を言って欲しくて助けたわけじゃない。ただ俺はあのような理不尽な発言が許せないだけだ」
「それでもお礼を言いたい訳。こういう時は素直に受け取っとくべきだよ?えっと…」

名前をまだ聞いていなかった為、なんて呼べばいいのかわからなかった。

「音楽科二年、月森蓮。君と同じコンクールの参加者だ」

するとの様子を悟ったのか月森本人から名乗った。

「そっか…月森ね。あたしは。引き止めてごめん。でも本当に助かった」
「別に…構わないがこれからは周囲の目を少しは気にした方がいい。それじゃ」

そう言って月森はに背を向け立ち去った。
はふぅっと溜息をつき風になびく髪を耳にかけた。

ちゃん!!」

バタバタと足音を立て走って来たのは火原だった。

「火原先輩?!どうしたんですか!そんなに慌てて…」

ハァハァと息を切らしながらの方へと駆けつけた火原。
は背中をさすり呼吸を整えさせた。

「ご、ごめん…間に合わなくて…」
「え?」
「さっきちゃんが…音楽科の三年に人気のない所に連れて行かれたって聞いて…っ…!
様子もおかしかったって言ってたから…慌てて追いかけてきたんだけど…」

はその言葉を聞き驚きが隠せなかった。
自分の為にこれほどまでに必死に走り回ってくれたのだと思うと少し驚きが隠せなかった。

「あ、あの…火原先輩…その…ありがとうございます…あたしの為なんかにそんなに息を切らしてまで…」

は素直に嬉しいと思った。
これほどまでに後輩想いな先輩に巡り会えたことを。
だが、それ以外に何か心でひっかる所があった。

「ううん俺の方こそ…何かあったら俺に言って?頼りないかも知れないけど…」

ニコッと笑った火原の笑顔を見て不思議と心が落ち着いた。
火原自身は自覚ないだろうが彼の笑顔はどことなく温かい気持ちにさせてくれる。
いつの間にかにとってその笑顔が安らぎへとなっていた。

「じゃあ、いつもの様にあたしに火原先輩の元気な笑顔を見せてくださいね!」

それが今のあたしにとっての安らぎだから…