のお披露目も終わりいよいよ本格的に行事に姫として参加する事になり始めた。
まず最初のお仕事は

「と言うわけで次の衣装は球技大会用なんだけどね!」

球技大会だった。






甘き追憶 05







「でね、今度はナーステイストなメイド服とかどうかなって思うんだけど!どこら辺がポイントかって言うと……」

名田庄の暴走が始まった。
服の事を語りだしたら止まらないのが彼の困ったところ。
達姫は少し呆れつつこれ以上放っておいたら話が止まらなくなりそうなので亨が口を開いた。

「あのそれはわかったんで…なんでまた採寸するんですか?」
「こないだの服作った時測ったのに…」

亨に続いて実琴も口を開いた。
すると名田庄は人差し指を立てチッチッチと言いながら横に振った。

「何を言ってるんだい。この年頃と言えば充分まだ成長期だろ?いきなりニョキッと伸びる事もあるんだから…」

ベラベラと喋っている名田庄の話をぼんやりと聞いている
お披露目の日から少し悩んでいる事がある。

(…この前は秋良も笑ってくれたからよかったけど…あたしはまだ罪悪感を完全に拭い切れてないな…)

秋良に隠し続ける事に罪悪感を感じつつも決して、真実を伝える事の出来ないもどかしさ。
本当の自分で秋良にもう一度会いたい。
それは我侭だと思っていても抑えられない。

、オイ。どうしたんだよ?」
「っ!?は?あ、いや…悪い…ボーっとしてた」

ぼんやりと考え込んでいたは亨に突然、声をかけられ驚いた。
パッと見ると既に肩幅や身長など測り始められていた。


「次、だよ」
「あ、俺は測ってきたから…」
「え?どうして?」
「えっと…修也がいくら男でも誰かに触られるのは駄目だって言って…」

の言葉に亨と裕史郎は遠い目をして「「あぁ…なるほど…」」っと答えた。
本当の理由はが男装していると言う事実を知っているのは修也と名田庄だけである為に
誰かが採寸するとバレてしまう可能性があるからだ。

(つっても男が触るなんて絶対に駄目って本当に言ってたんだけどね…)

もぼんやりとした表情で「ハハ…」っと笑った。
そして名田庄に測ってきたサイズを書いた紙を渡した。
すると全員のサイズを測り終えそれぞれのサイズを見て悩みだした。

「むぅー…ひょっとして四方谷と河野は少し…背が伸びてないかい?」
「「え?」」
「ちょうどそこに身長測定のあるし測ってみ?」

そう言われ裕史郎と亨は身長を測った。
亨は169.4cm。
裕史郎は170.1cm。

「前より1.2cm伸びてる!」
「170台突破したよ!」

身長が伸びた事を喜ぶ二人と伸びられて困る名田庄。
そして実琴も慌てて身長を測った。

「俺は!?俺はいくつ!?」
「あーえっと…167だね…」
「か、変わってない…」

1cmも変わってなかった実琴はかなりショックだったようだ。
ギャーギャーッと喚いている実琴をよそにも身長を測る事にした。

「えっと…168.4cmだね」
「…また伸びた…」

正直言って女としてはグングンと身長が伸びていくのは不満である。
背が高い方が男装してもバレにくいがやはり複雑である。

「ちょっと待て!!何でまで伸びて俺だけ伸びてないんだよ!!」

まで伸びていたのに自分だけ伸びていないという事実に驚く実琴。
自身も少しばかり不憫に思った。
女であるよりも身長が低いのだから。

「役目を嫌々やってるからじゃないの?」
「あぁ…ストレス抱えてると成長促進に影響するってなんかで聞いたことあるな…」
「考えてみれば伸びたのって姫の仕事嫌がらずにやってる三人じゃない?」

が言った言葉通り伸びた三人は姫の仕事を嫌がらずにこなしている。
しかし伸びなかった実琴は姫の役目を嫌々やっている。
更に実琴はショックを受けていた。



「もーウザイよ!実琴っ!そうやってウジウジ引きずるから背が伸びないんだろ?」
「…うるさい…」
「裕史郎…それはちょっとキツいって…」

全て測り終え寮へと帰ろうとしている時に実琴は身長が伸びていなかった事に対しずっとショックを受けていた。

「あっ。坂本!」

亨は下駄箱の方へと歩いてくる秋良に気づいた。

「何?今帰り?」
「うん、週番だったから」
「そっか。俺達は姫の衣装採寸で遅くなったんだ。ついでだから途中まで一緒に行こうぜ」

亨は秋良を途中まで一緒に帰ろうと誘った。
は嬉しい反面少し戸惑いつつあった。

(平常心…平常心…)

そう言い聞かせていた。

(って言うか変に意識する方がおかしいよね…秋良も気にしてないみたいだし…
別にあたしが変に意識する必要なんて…そう…秋良にとって目の前にいる有定はあくまで男友達で…
秋良の会いたがっている人は有定なんだよね…今思えば…正体を明かしたらどう思うんだろう…
たとえ会いたかったからとはいえ結果的には秋良のこと騙してたことになるんだし…嫌われ…るよね…)

不安を感じた。
もし秋良の事を思うのであれば秋良の会いたがっている有定として正体を明かすべきなのだろうが
結果的に嘘をついていた事になる為に今、秋良の目の前にいる有定としても
有定としても受け入れてもらえなくなるのではないのかと。
罪悪感を感じた。
秋良に本当の自分を何一つ見せていないと思ったからだ。
不安を感じて罪悪感を感じ目の前が真っ暗になった。
それでも男装した姿ではなく本当の自分の姿を見てほしいと思った。
しかし正体を明かした事により有定としても有定としても受け入れてもらえなくなったらと考えてしまう。

(あーもう…!考えても全然わかんない…どうしたらいいなんて…わかんない…
でも…きっとまだ明かすべきじゃないんだろう…まだその時じゃない…そんな気がする…)

最終的にが辿り着いた答えはまだ明かすべき時じゃないと思った。
たとえ男装をした姿でも秋良と再会し友達になれた事は誇りに思えるからこそ。

(まだ傍に居たいから…だからもう少しだけ嘘をつかせてて…秋良…ごめん…)

ゆっくりと目を閉じた。
心の中で謝りながら。

?」
「どぉぉぉわっ!!!」

突然、肩に手を乗せられ名前を呼ばれは凄まじい雄たけびを上げた。

「ご、ごめん!そんなに驚くとは思わなくて…」

声を掛けてきたのは秋良だった。

「あ、いや…俺の方こそ変な声上げて悪い…で、何?」
「うん、みんな寮生だけどもうすぐ夏休みだけどどうするのかなって」

秋良のその一言にと亨、裕史郎の表情は一瞬、曇った。

「実琴は初日から帰るよね。カ・ノ・ジョ・が待ってるからね」

すると裕史郎は実琴をからかい始めた。

「なっ!何言ってッ…!」
「でも帰るんだろ?友達よりも恋人と一緒にいたいもんなーそりゃとっとと帰るよなー」

そして亨も裕史郎と一緒になってからかい始めた。

「へえー実琴君って彼女いるんだ」
「意外だな…その女顔で…」

すると秋良との言葉を聞き実琴は顔を真っ赤にする。
もちろん二人に追い詰めてるつもりはない。

「そうだよ!彼女いるよ!初日から帰るよ!悪かったな!」
「ど、どうしたの?何か悪いこと言った?」
「あー坂本もも悪くない悪くない」
「実琴が勝手に自爆しただけだから」

慣れた口調で亨と裕史郎は答えた。
秋良とは少し戸惑いつつも「そうなの?」と答えるしか出来なかった。

「ところで三人はどうするの?」
「俺は寮に残るよ。大きい子供なんかが家にいたって持て余されるだけだし帰るのメンドくさいしね」
「俺も同じだな…だから寮に残る。こっちにいるの気楽だし」

そう答えた裕史郎と亨の表情は少し切なそうだった。

は?」
「…俺は…」

そう言われてみると夏休みどうするか考えていなかった。
こっちの学校に転校してきたのも時期的に遅かったし慣れる事が大変だっただけに…
それ以上に毎日が楽しく感じれていたからこそ考える余裕などなかった。

「…俺も寮に残るかな…あんま家帰ってもなって感じだし…つーか修也がくっついて来たらうっとおしいし」

遠い目をしては答えた。
すると亨と裕史郎も何かを納得したかの表情で遠い目をした。

「でも三人とも休み長いのにずっと残るんだ…」

すると秋良は少し考え込み笑顔で三人を見た。

「あ、だったらウチに遊びに来ない?」

秋良の突然の提案に三人はキョトンとした表情で秋良を見た。

「長い夏休みなんだからずっと寮にいても退屈するだろう?気分転換にでも遊びに来てよ」
「坂本のウチ…ってことは伝説の『坂本様』が居るって事か」
「あ、それはぜひナマで見てみたいかも」

亨と裕史郎は秋良の兄の初代坂本様の事を話す。
盛り上がっている中、は少し考え込む。

(夏休みか…まぁ、どうせ家に帰らないから寮生活だけど…考えてみれば…去年までの夏休み何してただろ…全然思い出せないや)

それはきっと今が楽しく感じているからだろう。
秋良と出会う以前の思い出が色あせてあまり思い出せないくらい秋良や亨達と過ごした日々が楽しく感じているからだろう。

(ちょっと自分でもびっくりかも…)

それでも不思議と心地よく感じれる自分が居る。

(まぁ…男装するとは思いもしなかったけど…おまけに少し前の修也にそっくりだし…)

そんな事を思っていると修也の顔がふっとよぎる。

(考えたらあたし…ここ数年、修也とまともに顔合わせて会話なんてしてないかも…

一緒の家に居たとしても軽く話すくらいで…昔ほど話さなくなってきたな…)

この学園に入ってから気になっていたのは秋良の事だけではなかった。
自分と修也の間にいつの間にか出来てしまった溝。

(…そういった意味ではやっぱり家に帰るべきなのかな…)

?大丈夫?」
「え?!あ、大丈夫…ってもう寮か…」

気がつくとすでに寮に着いていた。
秋良とはここで別れる事になる。
不思議と今日はまだ秋良の傍に居たいと思った。

「…あ、俺ちょっとそこのコンビニに寄って行くからそこまで一緒に行こうぜ?秋良」
「うん、いいよ。それじゃ、三人とはここでお別れだね。また明日」

そして秋良とは寮の前で三人と別れコンビニへと向かった。

「コンビニで何買うの?」
「あー甘い物。時々すっごく食べたくなるんだよ」
「そうなんだ。寮からコンビニ近いから便利だね」
「まあな」

そんな何気ない会話をしているとすぐにコンビニへとついてしまった。

「あ、もうついたな…じゃあ、ここで」
「待って、。これ」

はスッと秋良の差し出したメモを受け取る。
メモに書かれているのは電話番号とメールアドレス。

「これ俺の携帯の番号とアドレスだから。いつでもかけて来てくれていいから」
「秋良…あ!俺のも教えるよ!」

そう言っては慌ててメモに電話番号とメールアドレスを書いて秋良に渡した。
すると秋良はニッコリと笑ってメモを受け取った。

「これから夏休みだけど暇だったらいつでも遊びに来てね。俺も誘うから」
「…うん!」

秋良のその一言を聞いてあたしは早く夏休みが来てほしいと思った。
その前に球技大会があるけど…
そう、この時はまだあんな事が起こるとは思ってもなかった。