姫姿のあたしを見て秋良は誰かを思い出した。
それは一度だけしか会った事がなく名前も知らない人。
それがあたしに似ているって。
それって…もしかしなくてもあたし自身じゃないの…?!






甘き追憶 04







(ど、どうしよ…姉妹居るなんて言ったら嘘になるし…でも張本人だって言っても駄目だし…)

突然、秋良の口から聞かされた秋良の想い。
名前も知らない一度だけ出会った女性にもう一度会いたい。
その女性がに似ているということ。
恐らく本人だろう。
どうすればいいのか迷っていると姫姿の亨がやって来た。

「坂本、有定会長が呼んでる」
「あ、今行くよ。、さっきの事は気にしないで。ごめんね?」

に謝って秋良は有定の元へと向かった。
すると亨がの近くに寄ってきた。

「すんげーナチュラルにハマってる」
「そ、そうか…?」
「いい感じだと思う。二人も着替え終わったからヘッドドレスつけ終わったら来いよ」
「あ、うん…」

ぎこちない返答をすると亨は別室から出て行った。
そしてはぼんやりとした表情で座り込んだ。

「はぁー…」

手に持っていたヘッドドレスをギュッと握り締め大きな溜息をついた。
そして膝を抱えて顔を埋めた。

(馬鹿みたい…覚えてくれてたかも知れないけど…あたしって可能性が100%ってわけじゃないのに…
たとえ本当にあたしだとしても…今、秋良の目の前に立っているのは有定であって有定じゃないんだ…)

有定と有定というどちらも本当の自分であってどちらが本当の自分かわからない。
そんな想いがの中でグルグルと回っていた。



「悪い、遅くなった」

気分を変えてヘッドドレスをつけて別室から出てきた。
すると亨達は快く出迎えた。

「いや、別にいいよ。実琴なんて文句ばっかり言って着替えるの遅いし」
「だからそんな好き好んで着れるかよ…こんな服!っていうか何でいつも俺ばっかりに!」
「まぁまぁ、裕史郎もあんまり実琴ばっかりにつっかかんなよ。それに実琴も早く着替えればこんな事言われなくなるって」

亨が二人をなだめるとはほっとした。
これからこの温かな雰囲気の中、過ごしていくのだと思うと安心したのだった。

「それにしてもよく似合ってるね。姫の衣装」
「そ、そうか?一応…ありがと」
「確かに似合ってるとは思うけど…嬉しいか?!こんなヒラヒラの服が似合ってて!」
「そう言う実琴も十分似合ってる思うけど」

の心から思った事をサラッと口にすると実琴はズーンと沈んでしまった。

「あれ?俺、なんか悪いこと言ったか?」
「別には悪い事言ってないよ」
「むしろ真実だしね」
「みんな、そろそろお披露目が始まるって」

修也に呼び出されていた秋良が控え室に戻ってきた。


は一瞬、戸惑ったが平常心を保つように深呼吸した。

「じゃ、行こうか」

亨のその一言で達、姫と秋良は控え室を後にした。
そして校内に放送が響き渡った。

声は生徒会長である修也の声だ。

「まずは西校舎の一階からだから俺について来てくれるかな?」
「了解」

さっきの秋良の言葉が気になりつつも今は仕事に集中しなくてはならない。
色々な想いが交差しつつもは一つ溜息をついて今は考えないようにした。
西校舎の一階についた瞬間に姫の仕事が始まったのだ。
ゆっくりと秋良の後をついて行く姫達四人。
そしてまず最初の教室に辿り着いた。
教室から熱烈的な応援の声が聞えてくる。
一瞬、戸惑っただがすぐに亨や裕史郎を見習って姫スマイルを実行してみた。

「まだ慣れない事が多いですがよろしくお願いします(こ、こんなんでいいのかな…?)」

するとかつてないほどの興奮にその教室内は一気にテンションが上がった。
そして亨と裕史郎も続いてほほ笑んでいた。
しかし実琴だけぶすーっとした表情だった。

「実琴もちゃんと笑わないと。また過剰なスキンシップ受けるよ」
「うっ…!」

戸惑いつつもニコッと実琴もほほ笑んだ。
どうやら実琴は姫スマイルをする事に抵抗があるようだ。
と言うよりも姫の仕事自体に戸惑いがあるようだ。



「はぁー終った…」

流石に歩いて校内を回るのは大変なものだった。

着替え終えたはダラーっとしていた。

「お疲れ様、
「あ、秋良…」
「はい、これ飲み物。ずっと歩きっぱなしで笑ってたから疲れたでしょ?」

スッと差し出された飲み物を受け取りながらお礼を言った。
そして秋良は隣の椅子に座った。
それと同時には一気に緊張した。

…さっき俺が言った事だけど…」
「あぁ…」
「気にしないで。ずっと姫の仕事やってた時も気になってたみたいだから…」
「秋良…」

秋良のその言葉には少し罪悪感を感じた。
秋良の言っていた人物は本人だと言うのにそれを伝える事が出来ない。
そんなもどかしさを感じていたがが今、伝えられる事はただ一つだった。

「秋良、その俺の姫姿に似ている人だけど…いつか会えると思う。
核心はないんだけど秋良が会いたいと思うならきっと会えるから」

それはも秋良に会いたいと願ったからだ。
男装した有定としてではなく有りのままの有定として。

「ありがとう、少し気が楽になった。何だか俺が慰められちゃったね」
「何言ってんだよ。俺達、友達だろ?」
「ハハ、そうだね。これからもよろしくね、
「あぁ、こちらこそよろしくな。秋良」

そしては心から思った。
たとえ男装でとは言えこの学園に来て本当によかったと。
亨や裕史郎に実琴に出会い、そして何よりも秋良と再会を果たす事が出来た事を改めて喜んだ。