まだ着慣れない男子制服に袖を通し寮から出て行く。
今日から正式に男子校である藤森学園の生徒の一員である。
本当は女だけど。






甘き追憶 02







が校門前に到着したと同時に視線は一気にに集中した。
それと同時にざわめき始めた。
校舎内からもを見ている生徒が何人もいる。
今、ほぼ学園の生徒の視線が集中しているにも係わらずは平然とした表情だった。
彼女は人に興味がない為、どんなに視線を感じようとざわめこうとどうでもいい話だった。

(はぁ…ざわめきがすんごくうるさい…男子校ってこんなに一人の人間に注目を集めるものか?
しかも男に。まぁ、本当は女だけど…まさかいきなり女だってバレたとか!?でもいくら女顔だからって
実琴とか裕史郎とか亨とかどうなのよ!?あれこそそこらの女より可愛いって!!)

関係のない事を色々とグルグルと考えていたら誰かがの肩をポンッと叩いた。

「っ!?」

はいきなりの事でビクッとしながら振り返る。

「おはよう、。驚かしちゃったかな?」
「秋良!ううん、大丈夫だ」

に声をかけてきたのは秋良だった。
本人は自覚がないようだがどことなく人を和ませる雰囲気をしている。
そして彼ががこの学園に来た理由。
秋良に町で一度ぶつかった事がきかっけで今までに感じた事のない不思議な想いにさせられ
人に興味のないがもう一度会いたいと強く願ったからだ。
実際に会ってみるとやはり彼はとても眩しく不思議な想いにさせられた。

「今日から本格的にこの学園で生活する事になるけど何かあったら俺に言ってね」
「あぁ、ありがと。…ところで…一つ聞いて良いか?」
「何?」
「何で、秋良が俺に話しかけた瞬間、違うざわめきが起こったんだ…?」

そう、秋良がに話しかけてきた瞬間に周りのざわめきが変わった。
耳を澄ませて聞いてみると

「坂本様だ…」
「坂本様が随分、可愛い子と一緒にいるぞ…」
「あれ?坂本様と一緒にいる子って…」

などと聞こえてくる。
そしてが一番気になった事。

(坂本…様!?全校生徒が秋良の事を様付け!?)

何故か全員、秋良の事を様付け。
そして修也に秋良の名前を教えてもらった時にも坂本様と呼んでいた事を思い出した。

「ちょ、秋良…何でお前様付けで呼ばれてんだ!?つーかさっきざわめきは異様だろ!?」

かなり不審に思ったは秋良に思い切って質問してみた。

「あ、えっとそれは…」

すると秋良は少し苦い表情をした。
そして秋良が言葉を続けようとすると

「おはようございます!坂本様!今日は随分と可愛らしい子と一緒なんですね!」

一人の生徒が秋良に挨拶してきた。
もちろん様付けで。
しかもその相手は上級生だった。
ますます状況が掴めなくなって来た
今までは周りがどんな状況になろうがどうでもよかったと思っていたにも係わらず秋良の事だと妙に気になってしまう。

「おはようございます。彼は今日からこの学園の生徒なんで…」

少し戸惑いつつも上級生と会話を交わす秋良。
すると他の生徒も会釈して行ったり敬語で挨拶していく。

(おかしい…この学校絶対におかしい…いや、そもそも姫制度がある時点で充分おかしいって気付けよ自分)

「おはよう。坂本、
「お、亨に裕史郎。おはよう」
「おはよう、二人とも」
「すごい集まりだね。坂本様と四人目の姫が一緒に居たら当然か…」

裕史郎のその言葉にはハッとした。

「そうか!さっきからなんか妙に視線感じるなって思ったら俺が四人目の姫だからだ!」
「「気付いてなかったのかよ」」

余りにも鈍すぎるに思わず亨と裕史郎は声を揃えてツッコミを入れてしまった。
秋良は「ハハハ」とニコニコと笑っていた。

「でも早いね。が四人目の姫って事が広まったの。まだちゃんと教室で転校生だって紹介さえされてないのに」

ふと疑問に感じた秋良が亨と裕史郎に尋ねた。
するとその疑問に答えたのは亨だった。

「あぁ、何か有定会長…楽しげに校内中にが四人目の姫だって張り紙貼ってたけどな。有定会長のシンパの人達が」

有定シンパこと生徒会メンバーの三人である。
その事を聞いては大きな溜息をついた。

「自分じゃやんねーんだな…アイツは…」

自分の兄ながら恐ろしい奴だっとは思ってしまった。
そんな事を考えていたらふと自分の思った事に疑問を感じた。

(あたし…今…修也の事に…関心を持った…?)

今まで家族にすら興味がなかったが兄である修也に対し関心を持った事に驚いた。

「どうしたの?
「あ、いや…別に何でもねーよ」
「それで明日にはお披露目やるってさ」
「はぁ!?明日!?」

裕史郎からお披露目が明日だと聞いては更に驚いた。
姫という仕事が具体的にまだわかっていないままいきなりお披露目があると聞かされ驚くのは当然だ。

「やっぱり聞いてなかったのか…有定会長から」
「でも大丈夫?いきなり明日だなんて…」
「別に大丈夫。どうせ廊下を歩き回るだけだしよ。まぁ…修也を今更止める事は出来ねーよ…」

遠い目をしては言った。
妙にその言葉は説得力があり亨と裕史郎は頷くことしかできなかった。

「まぁ、何かあったらフォロー頼むぜ?亨、裕次郎。…秋良」
「任せとけよ。困ったことがあったら何でも言ってくれよな。まぁ、俺も転校生だったしお互い頑張ろうぜ」
「俺も姫とかの事でわからなかったら言ってくれたらいいよ。また後で一つ伝授する姫スマイルは効果絶大だから」
「姫スマイル…?あ、あぁ…後ほどまた教えてくれ」

姫スマイルと言う単語に少々の疑問を感じつつも頷いた。
そして秋良がほほ笑んで口を開いた。

「俺も何か力になれる事があったら言って。委員長だしそれに友達だから」
「…友達…?」

秋良の何気ない言葉がの耳に残った。

「うん。あ、迷惑だったかな?」
「ううん!全然!むしろ嬉しい!俺なんかが友達でいいのか?!」

友達と言う単語。
前の学校でも友達は居た。
しかしこれほどまでに友達と言う言葉が心で響いた事はなかった。
そして誰かが友達だと言ってくれてこれほどまでに嬉しかったことなどなかった。

「うん。俺なんかでよければ」
「あ、ありがと…」
「俺もの事、友達だって思ってるぜ」
「俺も。実琴と違って大人だし有定会長とは違って素直だし」

亨と裕史郎からも友達だと言われは自然と笑顔になっていた。

「ありがと。すんげー嬉しい!」

これほどまでに友達というものが温かなものだったのだろうか・・・
この学園に来てまだ二日。
それなのにの中で確実に何かが変わり始めていた。
いよいよ本格的にこの学園での生活が始まる。
は担任と教室へと向かっていた。
先に担任が教室へと入り名前を呼ばれてから教室の中へと入った。
するとそこは黒い制服を身にまとった男だらけ。

(本当…男だらけ…別にどうでもいいけど…それにここには亨や裕史郎…秋良も居るんだ。大丈夫だろう…けど…)

が教室に入った瞬間、大歓迎ムードだった。

(この大歓迎ムードはどうも気になる…一応、男として転校してきてんだけどな…)

それは恐らくが四人目の姫だとわかっているからだろう。

「静かに!彼は生徒会長の有定修也の弟だ。あまり不埒な事を考えたらただではすまないと
生徒会長本人から伝言を伝えてくれと言われていた。死にたくなかったら馬鹿な事は考えない方がいいだろうな」

担任の口から聞かされた修也からの伝言には苦い顔をした。

(アホ兄貴…)

そしてまわりもどよめいた。
そのどよめきには大きな溜息をついた。

(…こんなにどよめく様な事してんのかしら…?アイツ…)

そして心から我が兄ながら恐ろしいと思ってしまった。

「それから何かあったら坂本に尋ねる様に」
「あ、はい」

秋良の名前が出た瞬間に再びどよめき始める。
耳を澄まして聞いてみると坂本様、坂本様と言う声が聞こえてくる。

(だからなんで様付けなんだ!?)

そして昼休みになり食事をどうしようかと考えていたらの席に秋良が来た。

、お昼だけどどうする?購買と学食の場所教えるけど」
「あ、教えてくれるか?」
「坂本、。よかったら昼一緒に食おうぜ?」
「あ、河野、四方谷。うん。俺はいいけど。はどう?」
「俺も全然構わないけど」
「じゃ、購買に行ってパンでも買ったら屋上で食べよう。
学食はいきなり行ったら人も多くて落ち着かないと思うし色々と話もしたいから」

裕史郎の提案に三人は賛成して購買に向かう事になった。

(屋上に着いたら色んな事聞いてみよ…秋良が何故坂本様呼ばわりされているのかとか…姫スマイルとか…)

購買へと向かっている最中にもやはり秋良は坂本様呼ばわりされていた。
もう流石に慣れてき始めた
しかしが驚く出来事はまだ残っていた。

「河野ー!四方谷ー!」

数名のの男子生徒が亨と裕史郎の名を叫びながらこちらへとやって来た。

「あぁ…今日もとても美しい!そしてその美しさで天使のほほ笑みを俺達に見せてくれぇ!!」

熱い演技、いや彼等はきっと本気だろう。
熱の入った言葉で訳の分からない発言をし亨と裕史郎の前に跪く男子生徒達。
あまりにも謎な光景には数歩、下がった。

「お勤めだな…裕史郎…」
「あぁ…ついでにに見本を見せてあげれるな」

そう小さな声で会話して亨と裕史郎のとった行動は…

「「みなさん。お昼からも勉強頑張って下さいね」」
「っ!?」

これでもかと言わんばかりのキラキラとしたオーラを放ったほほ笑みを浮べる亨と裕史郎に流石のでも驚きが隠せなかった。
するとそのほほ笑みを見た男子生徒達は歓喜の涙を流している。
ますます訳の分からなくなって来たの肩をポンッと秋良が叩いた。

「大丈夫…?いきなりでビックリしたと思うけど…」
「ビックリとかいうレベル超えてる気がするのは俺だけか…?」
「アハハ…でもも多分…あれしないといけなくなると思うよ」
「えぇ!?俺もするのか!?」
「お待たせ。さっさとパン買って屋上行こうぜ」
「どうした?。面白い顔して」
「あ…いや…うん…何でもない…」

本当は大有りだ。
先程からこの学校には驚かされてばかりだ。
最初は姫制度。
そして秋良の様付け。
そして亨と裕史郎のしていたほほ笑み。
色々と訳の分からない状態で不安がただ積もるばかりのの男装しての学園生活が始まったのだった。