「ふ〜ん…が人に興味を持つとはね。それもあの坂本様に。うーん…坂本様の偉大さがまた証明されたね」
「坂本様って言うの?その人」
「うん。名前は坂本秋良。と一緒で一年生」
「一年生…修也!あたしどうしてもその坂本秋良って人にもう一度会いたいから何とかして会わせて!」

必死に修也に頼み込む
今までこんな事は一度も無かっただけに修也は少し驚きつつも楽しそうな笑みを浮かべた。

「会わせてあげてもいいよ」
「本当!?」

その言葉には素直に喜んだ。
しかし修也は意地悪な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「君が俺の学校に転校してきなよ。男装して」
「は?」

この一言が全ての始まりだった。






甘き追憶 01







藤森学園。

「有定会長、何の用だろ?」
「さぁ?姫の事じゃない?」
「またかよ…でも、行事まだ先だろ?」
「うん。それに俺まで呼ばれてるし…何だろう?」

緑の髪に緑の瞳、髪はショートで真ん中分けで美少女の様に美しい少年、河野亨。
オレンジよりも少し色素の薄めの髪に同じ色の瞳、肩くらいの長さの髪で本当に美少女に見えるくらいの少年、四方谷裕史郎。
赤茶色に赤茶色の瞳の色、髪はショートでムッとした表情をしていてもとても可愛らしく見えてしまう美少女の様な少年、豊実琴。
そして亨と同じ様な緑色の髪に緑色の瞳、しそうな表情の少年、坂本秋良。
そうがずっと会いたいと思った少年だ。
彼らはこの学園ではかなり重要な人物だ。
亨、裕史郎、実琴の三人はこの学園では姫と呼ばれている。
藤森学園には姫制度というものがある。
姫制度とは郊外にある男子校での男ばかりの殺伐とした学園生活に、大きな潤いを与えるべく、
毎年新入生の中で容姿、性格、ともに飛びぬけて麗しい生徒に女の子の格好をさせ校内のイベントなどに参加してもらい、
生徒の志気を高めたり心のオアシスにしてもらおうという制度。
そして今年の姫に抜擢されたのが亨、裕史郎、実琴の三人だというわけだ。
秋良は一年生でありながら全校生徒から坂本様と呼ばれ尊敬と注目を集めている。
入学と入れ違いで卒業した兄の影響により坂本様と呼ばれるようになったと言っており
本人はそんな尊敬されるような人間ではないといっているが運動神経抜群、成績秀、人柄良しとどこをどう見ても完璧だ。
そんな彼は生徒会長である修也になかり気に入られており次期生徒会長にと企んでいるようだ。
そして本日、四人は生徒会室へと呼び出された。

「失礼します。有さ…………」

四人は生徒会室の扉を開くと目の前の光景に唖然となる。

「あ、みんな来てくれたんだね。ん〜どうしたの?面白い顔して」

((((有定会長が二人いる…!?))))

四人が驚くのも無理もない。
修也にそっくりの少年が一人居るのだから。
しかしその少年は修也より少し幼い感じで女の子らしい。
その理由はもちろんその少年はが男装した姿だからだ。

「あ、あの…有定会長…そ、その人は…?」

亨が恐る恐る聞いてみた。

「あぁ〜彼はね、俺の大事な弟」

(弟…ね。ハハハ…妹だっつーの…にしても…ヅラが重い…)

はぼんやりと違う方を見ながら苦笑していた。

「有定会長に弟なんて居たんだ…」
「確かにそっくりだけど…」
「性格まで似てたらどうしよ…」

さり気なく三人は失礼な事を言っている。
すると秋良が苦笑しながら口を開いた。

「そんな有定先輩にも弟さんにも失礼だよ」

その声が聞こえた瞬間、はバッと振り返る。
の目の前にはずっと会いたいと思っていた少年がいる。

そう坂本秋良が。

「やっと…やっと会えた…」

は椅子から降り秋良の近くに駆け寄った。

「やっと会えた!ずっと…アンタに会いたかったんだ!」
「え?どこかで会った事…?」
「覚えて…っ!(しまったぁっ!!!!今は男装中じゃん!!!どうしよう…!
素で気付かなかった…!あぁ…絶対に変な奴だって思われた…!)」

思わず秋良に会えた事に喜んで男装中だと言う事を素で忘れていた
気まずい雰囲気が流れる。

「実はね、は…あ、弟の名前ね。に坂本様の話をしたら会いたいってずっと言ってたんだよ。
だからこの学校に転校してきたんだよ。坂本様に会う為に」

すぐさま、修也はフォローする。

(修也…!悔しいけど助かった…)

「そうだったんですか。あ、俺は坂本秋良。そんな大した奴じゃないけど…よろしく」

秋良はにニコッとしくほほ笑みかける。

(あ…この感じ…まただ…)

秋良のほほ笑みを見た瞬間、は再び不思議な気持ちになった。

「ほら、も自己紹介しなよ」
「あ、うん。俺は有定。修也の弟で一年生だ。よろしくな。(こんなんで良いの…?男言葉って…)」

ぎこちない言葉遣いで女だとバレないか少し不安だった。

「俺は河野亨。よろしくな」
「四方谷裕史郎。よろしく」
「…俺は豊実琴。…………」

しかし意外とバレないものだった。
は少しホッとした。
が、実琴はの顔を凝視する。

「……な、何?」
「お前…有定って言うんだよな…」
「そうだけど…」
「頼む!俺と…!俺と代わってくれ!!大丈夫だ!お前ならきっと大丈夫だ!!
会長の弟ってだけあってかなりの女顔だから十分やっていける!!!!」

突然、肩をガシッと掴まれては状況がまったく掴めない。
しかし実琴言葉を思い出してみると代わってくれや女顔だから十分やっていけるなど言っていた。
その言葉を思い出しはあの事かと思った。

「もしかして…姫の事?」
「それ!!頼む!!」
「俺は元々、姫としてこの学園に入学してきたんだけど…
実琴…でいいのか?実琴の姫辞退は…ないと思う…そうだろ?修也」

実琴の姫辞退の事を修也に聞くと満面の笑みで修也は頷いた。
すると実琴はその場に座り込んだ。

「そ、そんな…!と言うよりお前はいいのか!?」
「何が?」
「姫として入学してきたって言ってるけど姫なんていい事ないぞ!?」
「別に俺は女装するくらいなら全然構わないけど…」

サラッと答えたは内心、女装も何も元が女だから苦痛じゃないし…と思っていた。

「それに俺はこの学園に入学するには姫として入学しろって修也に言われたから」
「実琴、いい加減諦めたら?どうせ一年だけなんだし。それに似たような事、亨の時にも言って無理だったんだからさ」

そう言ったのは同じ姫である裕史郎だった。

「…わかってるけど…」
「四人目の姫になるわけか?えっとでいいか?」
「あぁ。別に構わない」
が四人目の姫って事か…」

そう言って納得したのは亨だった。

「でもいいの?姫の仕事は結構、大変みたいだけど…入ってすぐになんて…」

そう言ってを心配したのは秋良だった。

「うん。いいんだ。それがこの学園に入学する条件だったし」
「「大人だな…実琴と違って」」

と声を揃えて呟いたのは亨と裕史郎の二人だった。
すると実琴はムッとした表情をしていた。

「さてと自己紹介も終わったみたいだし今日、君達を呼んだ理由を話そうか。
まぁ、既にわかったみたいだけどこれからは四人目の姫としてこの学園に入学するから
わからない事も多いと思うから色々と教えてあげて欲しいって訳だよ。それから坂本様」
「はい?」
「さっきの通りは坂本様に会いたいが為にこの学園に入学したから仲良くしてあげて。は坂本様達と同じクラスだから」
「はい。よろしくね。えっと有定って呼ぶと有定会長にも失礼な気がするから…


って呼んでも良いかな?俺の事は秋良でいいから」
「あ、うん…いいぜ。あ、秋良…」

少し名前を呼ぶのが恥ずかしかった。
こんな風に緊張した事はあっただろうか?
こんなにも人と話すのが難しいものだったのだろうか。
こんなにも人は温かかったのだろうか…
そんな事をぼんやりと考えた。

「で、もしかしてまたお披露目でもやるんですか?体育館で」

裕史郎が修也に質問すると修也は楽しそうな笑みを浮かべた。

「うん。でも今回は体育館ではやらないよ」
「え?どこでやるんですか?」

修也の発言に亨達は驚いた。

「何回も体育館でやるのもつまらないから校内歩いてもらおうかと思って」
「嘘…?そんな面倒なことしないといけないの?姫って」

修也の提案にお披露目の大本命のが驚いた。

「うん。これもお仕事だからね。大丈夫。順番に教室を回っていけばいいだけだし。
と言っても教室を横切っていくだけだから。案外楽だと思うけど?」
「それなら別にいいけど…」
「もしかしてそのお披露目…俺達も行くんですか…?」

かなり嫌そうな顔しながら修也に実琴は質問した。

「うん。もちろんだよ。新しい姫であるだけを一人で行かせるなんて出来ないからね。
僕の大切なに何かあったら困るしね。いざって時は君達の姫スマイルでを守ってくれたらいいし」
「俺達は身代わりですか?」

苦い顔をしながら亨は修也に尋ねた。

「もちろん」

すると修也は即答した。

を守ってもらわないと困るから。何かと大変だと思うけど俺は君達の実力を信じて頼んでるわけだから」

(((完全なブラコンだ…この人…)))

亨、裕史郎、実琴の心の中で思ったことは見事に一致した。

「で、当日は坂本様にも一緒に行ってもらいます」
「え?でも俺は姫じゃないですよ?」

突然、話を振られて秋良は少し驚いている。

「さっきも言ったとおりはこの学園に坂本様に会いに来た訳だし色々と仲良くなってもらう為には
一緒に行動してもらうのが一番手っ取り早いと思ったし…それに坂本様が居ればの身の安全は確保されたも同然だしね」

ニッコリと笑う修也を見て秋良は苦笑しながら頷いた。

「それならいいんですけど…俺なんかが一緒でいいのかな?」
「あ、当たり前だろ!むしろ…アンタが居た方がいいし…あっ…」

自分の咄嗟の発言が恥ずかしくなっては口元を手で押さえた。

(な、何言ってんだろ…さっきから…こんな事…今までなかったのに…!秋良が居ると…自分が自分じゃないみたいだ…)

自分の発言に困惑していると秋良がの方を見てニコッとほほ笑んだ。

「ありがとう。俺でよかったら何でも言って。力になれそうな事は力になるから」
「あ…あぁ…こっちこそ…ありがとう…」

少しも思わずほほ笑んだ。
そしてフッと考えた。

(いつからだろう…こんな風に…人の笑顔がこんなにも温かいなんて思わなくなったのは…
秋良の笑顔を見てたらすごく…温かい…それに亨や裕史郎、実琴も何だか安心出来る気がする…)

そんなを見て修也は安心したような笑みを浮かべた。

「それじゃ、明日からには姫の仕事をしてもらうから」
「わかった。修也、俺は寮の方に挨拶しに行かないといけねーから先に帰るな」
「うん、お疲れ様。しばらく学校でしか会えなくなるね。寂しかったらいつでも家に戻ってきなよ」
「気色悪い事言ってんじゃねーよ…!」

そう言っては生徒会室を後にした。
元々、は家から学校は遠くはなく別に寮に入る必要はないのだが自身が望んだ為、寮に入ることになった。
人と関わり合うのがあまり好きではないは家にいる時もあまり家族とは言え喋る事が少ない。
その為、どうせなら寮に行った方が学校も近いし気が楽だと言い寮生になる事を決意した。

「それじゃ、君達も今日はこれで帰っていいよ。お疲れ様」

修也のその一言で四人は生徒会室を後にした。

「にしても有定会長そっくりだったな。性格は全然違うみたいだけど」
「性格は全然違うみたいでよかった気もするけど…」
「有定会長が二人になったりしたら…俺…耐えられねー…」

姫である三人は心からの性格が修也に似ていなくてよかったと安心した。

「でも坂本様に会いたいからこの学園に入学してくるなんてすごい根性だね」

そう言って秋良に話を振ったのは裕史郎だ。
すると秋良は少し考え込んだ。

「何だか…彼…どこかで会った事がある気がするんだ…」
「有定会長に似てたからか?」
「ううん…そうじゃなくて…一度…どこかで会ったような…」
「ん〜わかんねー…どこかで会った事あるならその内、思い出すって。とりあえず遅くならない内に帰ろうぜ」
「うん。そうだね」