この世界は何か面白い事なんてあるのだろうか?
人の第一印象は見た目で決まる。
あたし、有定の第一印象はだいたい、女顔の男か男っぽい雰囲気の女のどちらか。
確かに性格は女らしいとは言えないけど顔は兄に似て女顔。
でも正直な話、別にあたしは他人にどう思われていても構わない。
あたしは人に興味を持つ事が出来ない。
学校に友達がいないわけじゃない。
普通に一緒に話したり騒いだりする友達は居る。
だけど興味を持てるような人は一人もいない。
ただ一緒にいて、ただ一緒に話して、ただ一緒に行動する。
あたしと友達との間には一線引かれている。
そんな気がする。
でも、あたしは人に興味はないから一線引かれていてもどうでもいい話だ。
人は結局他人だから。
自分の兄にすら興味を持つ事が出来ない。
顔は美麗で成績も秀で人望も厚いけど、性格は正直、捻くれてる。
魔王の如く…
でもそんな兄にすら私は興味を持つ事が出来ない。
だから、何をしていても、何を考えていても楽しくなんてない。
毎日、特に面白い事もなくただ時間だけが過ぎていく。
このままずっと変わり栄えのしない人生を送り続けるのだと思っていた。
そう…思っていたけど…
高校生になってしばらくの月日が流れた時にその時…
今まで感じた事のない思いが一気にこみ上げて来た。
一人の少年を一目見て…






甘き追憶 00







(買う物はこんなものかな?)

街へと買い物に行っていたは買い忘れがないか確認をしながら歩いていた。
ドンッ!

「キャッ!」
「わぁっ!」

よそ見しながら歩いていた為、前方から人が来ていることに気がつかずに人とぶつかってしまった。
ぶつかった拍子には尻餅をついてしまう。

「あいたたた…」

かなり勢いよく尻餅をついてしまったせいでかなり全身が痛んだ。
痛がっているの前にスッと手が差し出される。

「え…?」
「ごめんなさい!大丈夫ですか?どこか怪我とか…してないですか?」
「…!」

その時だった。
初めて感じた想い。
言葉にうまく出来ない衝撃で眩しかった。
色素の薄めの緑の髪で同じ色の瞳をした少年。
他人を見てこんな風に感じたことなんて今までなかったのに。
眩しくてでも視線が逸らせなくて思わず見とれてしまった。

「あの?どこか痛みますか?」
「へ?あ、いや!大丈夫です!」

ぼんやりとしていたら声をかけられハッと正気に戻った。
心配そうにを見ていた少年はが大丈夫だと答えたら

「よかった…どこか怪我でもしてたらどうしようかと思った」

と心からホッとしたほほ笑みを浮かべた。

「…!」

まただ。
また不思議な気持ちだ…
何だろう…今まで感じた事の無い…不思議な想い…
彼を見ていると何だか温かい…
は差し出された少年の手を取り立ち上がった。

「すみません、ぶつかったりして」
「あ、いえ。あたしの方こそよそ見してたから。ありがとう…」

胸の鼓動が早くなっているのが自分でもわかった。

「でも怪我が無くてよかった。それじゃ」
「あ…」

少年は笑顔でお辞儀してその場を後にした。
は少年の後姿をただ見詰めていた。
心の中で思ったことはただ一つ。

(もう一度会いたい…)

今まで人に興味を持った事のないが一度、会っただけの他人にもう一度会いたいと思ったのは初めてだ。

「そう言えば…あの少年の…着てた制服って…」

少年の着ていた制服を思い出す。

「っ!修也の学校の制服だ!」

は少年が自分の兄、有定修也の学校の制服を着ていた事に気付いた。

「修也に一度聞いてみよっ!」

は全力で家へと向かった。
少年にもう一度、会いたいと言う想いを胸に。



「修也!!」

慌しく家の扉を開き帰って来た
するとを迎えたのは兄である修也だ。

「お帰り、。何をそんなにバタバタと暴れてるんだい?」
「暴れてねーっつの!!じゃなくて!!修也に聞きたい事があるの!」
「聞きたいこと?」

楽しそうに笑いながら修也は首を傾げた。
は真剣な表情をして修也に質問した。

「あのさ…兄さんの学校に色素薄めの緑の髪と瞳をした少年居ない?」
「……ん〜あぁ…居るよ。すごい人がね。どうしたの?が他人の事聞くなんて」
「…うん…少しだけ…興味持った…」

その少年にもう一度会いたい。
ただその想いだけだった。
もう一度会えるならどんな手段でも選ばないだろう。
こんな風に他人に興味を持った事がないからあの少年が不思議で…
あの笑顔が忘れられないんだ。
きっと彼にもう一度会えば何か変わる…そんな気がした。
今、少女の中で何かが変わろうとしていた。
「もう一度その少年に会いたいの。どうしても…」

瞳を閉じればあの笑顔が蘇ってくるから…