「うっわ…開いてないじゃん…玄関」

黒澤家玄関まで来たが扉は血だらけで何かの力に寄って開かない。

、蹴破って」
「無理です」

ニッコリと笑顔では澪の要求を断る。

「それなら澪の方が出来ると思うけどな」
「樹月君。また射影機の角で殴られたい?」
「ね、後ろに何か…居ない…?」

繭が両腕を掴んで三人に言う。

「え?何かって…」
「何?」
「気をつけた方がいい…ただの雑魚じゃないみたいだ…」






紅キ雫ニ滲ム蝶 08







「振り返ってみる…?」
「そうね…どうせ戻らないといけないんだし」
「それじゃ、一斉に振り返ろう」
「お姉ちゃんは私の隣に居て」
「うん…」

繭は霊感が強く霊に取り憑かれやすい為、いざと言う時の為に澪の近くに居た方がいい。

「せーので!」

の掛け声で四人は一斉に振り返る。

するとそこに居たのは…

「ギャー!変態M野郎が来たぁ!キモイ!!!!近寄ってくるなぁ!!!!!」
「うぎゃー!キモイって!何だよ!あのはだけ具合!お前のチラリズムなんて誰も求めて無ーい!!」
「二人ともその叫び方は女性としてどうかと思うけど」
「澪…カッコイイ…」

振り返ると楔が居た。


と澪は叫び樹月は至って冷静、繭は澪の男らしさにうっとりとしている。

「ちょ、どうすんの!?扉開かないし変態M野郎は近づいてきてるし!!!」
「射影機は効かないし…何か目眩しがあればいいんだけど…」
「えっと待って!鞄の中見てみるから!!!」

は手に持っていた鞄の中をあさる。
しかしどんどんと楔は近づいてくる。

ちゃん!」

「だぁーー!!!!何でもいい!!!!これでもくらえーーーー!」

鞄をあさっていたはやけになりたまたま掴んだ何かを楔に投げつける。

『ぐわぉあーーーーーーーー!!!!!!!!!』

するとが投げつけた何かが楔に直撃し楔は苦しみ出しその場から姿を消す。

「やった!!楔消えた!!」
「いったい…何投げたの?」
「えっとたまたま掴んだの。何投げたんだろ?」

楔の居た所に落ちているのはのお手製にお弁当。

「…お弁当…?」
「お弁当…」
「お弁当だね」
「ちょっと待って。仮にも楔ってラスボスじゃない!!何であたしのお弁当で逃げちゃうの!?」
「それほどのお弁当には殺傷力があるってことよ」
「そう言えばは昔から料理が破滅的に下手だから…」
ちゃん…カッコイイわ…」
「ふざけんなぁ!!!!」

お弁当でやられる楔。
ある意味最強の武器はのお弁当なのかもしれない。

「それしても見事な活躍だったね。のお弁当」
「本当…すごいわ、ちゃん」
「あれから少しはマシになってるって思ってたけどやっぱり駄目だったんだね。…」
「だぁーーー!!!!いつまでもお弁当のネタを引っ張るな!!!!」

楔をのお弁当で追っ払った後、違う場所から出て行く為、屋敷中を歩き回っていた。
途中で鞠が勝手に落ちてきたり長い渡り廊下を二手に別れて歩いたり当主の間で本棚に本を入れ色んな所を歩き回り座敷牢に来たのはいいのだが…

「ふぅ…疲れた…途中で澪が顔を隠した宮司に喧嘩を売って戦闘になったり…

繭はブツブツと何か呟いて正直怖かったし樹月はやったら手や腕を掴んできたりするから…!」
三人の行動には我慢の限界が近かった。

「だってあの宮司…人のことずっと八重って言うのよ?だからテメー判別出来ないなら顔隠すなって言っただけじゃない。
そしたら逆ギレされて戦闘になったわけ。それに私が倒したんだから文句はないでしょ?」
ちゃん…私は別に呟いてるつもりはないのよ?ただちゃんの貞操…ごほん!ちゃんの事を守れるのかなって考えてただけなの?」
「僕はが勝手に歩き出して勝手に道に迷って見つけた時に勝手に逆ギレされても
困るから出来るだけ離れないようにって思って。それに僕との関係じゃないか」

みんなかなり勝手な事を言っている。

「あーそうですか…はぁー…」

はもう怒る気力もなくし陽の鍵と陰の鍵を使い牢奥へ入った。
中は本棚がありかなり古い本ばかりだ。

「…ここ何だろ…?」

とりあえず何かないか辺りを見渡す。
すると目に付いたのが地図。

「ね、樹月。これってどこの地図?」

牢奥は狭くだけが入っていたが呼ばれた樹月は中に入る。
そしてが手にしている何か記しのついた地図を見る。

「これは…逢坂家の地図だね」
「逢坂家…?あぁ…村に入ってすぐの所にあるこの村では大して広くないあの屋敷」
、いくら逢坂家の屋敷が大して広くないと言うよりぶっちゃけるとまったくもって広くない屋敷だからって本当のことは言っちゃ駄目だよ」
「…最近…まで黒くなった気がするのは気のせいかしら…?と言うより樹月君!
さっさと出てきなさいよ。いつまでもとそんな狭い所でラブラブぶっこかないで」
「クス…澪…狭いほど燃えるプレイって知って…「オイッ!!!そこぉ!!!」」

樹月の発言にはすばやくツッコミを入れる。

「もう樹月ったら相変わらずわけのわかんないことばっかり言って〜あんまり変な事ばっかり言ってるとぶっ飛ばすよ?」
「アハハ。僕は痛めつけられるより痛めつけるほ…「はーい。そこまでにしておこうねーギリギリだから。そこの白髪セクハラ少年」」
「とりあえずここから出るねー何か身の危険を感じるし」
「そうね、早く出てきた方がの為よ」

そう言っては屋敷牢から出る。
後に続いて樹月も出て行く。

「…………」

繭は突然無言のまま牢奥へ入る。

「繭?」

突然の繭の行動に三人は振り返る。

「…え?あ、ううん…気のせいだったみたい…」
「どうしたの?お姉ちゃん。もともとかなり変だったけどこの屋敷にいる間特に変よ」
「澪…それは流石にヒドイよ。いくら繭が変だからって」
「さり気にもヒドイよね。そんなも可愛いけど」
「ちょ、何言ってんのよ?!樹月!」
「…ったく…あまりイチャついてると射影機で殴るわよ…?」

低く恐ろしい声がの耳に入る。

(…何か今…すごく低い声が…ううん…幻聴だ…幻聴…幻聴…うん…)

「とりあえずお姉ちゃん。早くここから出よ?」
「うん…澪が私の事をそんなに心配してくれるなんてお姉ちゃん嬉しいわ…」

うっとりとした声、幸せそうな顔。
そんな繭を見て心底「うぜぇ…」と言う顔をする澪。

(本当…八重と紗重みたい…何だか懐かしいけど…少し複雑だな…)

二人を見て八重と紗重を思い出すと言う事はそれほど意識が一つになり始めていると言うことだからだ。

(ちょっと待てよ…じゃあ、澪には八重の意識が?)

の中で新たな疑問が生まれた。
そして繭が屋敷牢から出てこようとした瞬間…

「…!?」
「お姉ちゃん!?」

突然、屋敷牢の扉が閉まり開かなくなる。

「澪!開かない!」
「待ってて!さっきが取ってきた地図に鍵があると思うから取ってくる!」
「澪!あたしも行く!」
「じゃ、僕も」

三人は閉じ込められた繭を助ける為に黒澤家から出る為にその場を後にしようと歩き始める。

「行かないで!」

叫び声に近い声で繭は呼び止める。
澪は繭の近くに駆け寄る。

「お姉ちゃん、すぐに戻るから!待ってて。本当にすぐだから!」
「さっき約束したじゃない!ずっと一緒だって…」
「…!」

繭の一言で澪は黙り込む。

「もう…置いて行かないで…一人にしないで…!」
「………」
「澪…?」

澪の様子がおかしいと感じたは澪の肩に手を置く。

「っ!あ、ごめん…ボーっとしてて…お姉ちゃん!本当にすぐに戻るから!待ってて!遅くなったら一つだけお姉ちゃんの言うこと聞くから!」
「それなら澪のこと抱か…「はい!さっさと鍵を取りに行きましょう!!」」

澪は立ち上がりそのまま歩き始める。

『マタワタシヲオイテイクノ?オネエチャン…』
「「…!」」
「…………」

低く冷たい声が響く。
澪とは驚きが隠せず思わず立ち止まり繭の方を見る。
すると繭はずっと下を見たままだ。
樹月は何かわかったかの様な表情でただ黙っている。
先ほどの声は繭とは思えない。
しかし澪もも口を開いてなどない。
ましてや樹月の声でもなかった。
何よりこの場に姉が居るのは澪だけ。
しかし澪はまったく口を開いていない。
そして声がしたのは繭の方からだった。

「…さっきの…」
、澪。急いで逢坂家に行こう。急がないと間に合わないかもしれない」
「樹月?」
「…………」

澪は心配そうに繭の方を見るが繭はずっと下を向いたまま何か呟いている。

「行こう…お姉ちゃん…助けないと…」
「うん…」

少し俯いたままの澪を心配そうに見る
複雑な思いを抱えたまま三人は地下貯蔵庫から外へ出る。

「…澪?大丈夫?」
「うん…少し小さい頃のこと思い出しただけ…早く鍵見つけに行かないとあの野郎の言うこと聞かないといけなくなるから」
「う、うん…」
「それじゃ、逢坂家に行こうか」
「そうだね、早く繭の事助けようね」
「そうね、いっそのこと一生あそこに閉じ込められてたら平和なのに」

かなり低い声で澪は呟いた。

「…………」

もう慣れたとは言え思わず無言になってしまう。
しかし繭と話していた時の澪の様子は明らかおかしかった。

『もう…置いて行かないで…一人にしないで…!』

繭の言葉が脳裏に過ぎる。
その言葉を聞いてから澪は様子がおかしかった。
そして先程尋ねると澪は小さい頃のことを思い出したと言った。
幼い頃、二人には何かあったのだろうか。
繭の足が悪い事と何か関係あるのかと色々と考えてしまう。
しかし人には聞かれたくない事もあるのだろうと思い気になりつつも澪には聞かなかった。

「…………」
?どうしたの?置いていくよ」
「あ、ごめん」

は先に進んだ澪と樹月の元へ駆け寄る。
黒澤家に閉じ込められた繭を助ける為に。