黒澤家に入ったのはいいが入った途端、嫌な気配を感じる。
そして澪が持っていた懐中電灯がチカチカとする。

「ライトが…!」

澪は慌てて懐中電灯を叩く。
しかしライトは完全に切れる。
最後に思いっ切り澪が懐中電灯を叩く。
するとバキッ!!と鈍い音を立て懐中電灯はライトの部分が折れて壊れる。

「あ…」
「「…………」」






紅キ雫ニ滲ム蝶 05








「しっかし澪恐ろしいわ〜懐中電灯って普通素手で壊れる?」
「実際に壊れたじゃない。きっと古かったから脆かったのよ」
「どうだろうね」

懐中電灯なしで広い黒澤家を歩くことになった三人。
しかし何故か黒澤家は薄暗いがいくつか灯火が灯っている。

「しっかし何度か黒澤家に来たことはあるけど…相変わらず広いな…あんまりいい気になれないし」
「本当、広すぎるわね。でもこれからどこに行く?」
「とりあえず大広間に行ってみよう。はぐれてしまった時のために集合場所にする為に。それから色んな部屋に回って行こう」
「それはいいけど…こんな所ではぐれて一人にはなりたくないよね…」
「それは言えてるかも…」

そんな事を言いながら三人は大広間へと続く廊下に来る。
廊下に着いた瞬間、何かがいると感じる。
すると姿を現したのは傷だらけでほとんど原形を留めていないほどの男と女の怨霊。

「うっわぁ!!!!!キモイ!!!!」
「原形留めてなっ!!グロ過ぎだって!!!!!」
「そんな事を言ってる内に倒したらどうなんだい…二人とも…」
「おーし!この刀でぶった斬ってやる!!!」
は女の方を。私はあのハゲを倒すから!」
「ハゲ?あー男の方ね。確かに頭皮ヤバイよね。あれ」
「二人とも余裕だね…」

樹月はと澪の会話を聞き溜息をつく。
そして澪が男の怨霊を射影機で倒す。
は楓にもらった短剣の抜く。

すると刀身部分は清らかな気で満ちている。

「…これ……!」

ギュッと刀を握り締め近づいてくる女の怨霊を斬りかかる。
すると女の怨霊は苦しみ出し姿を消す。

「すごい…この刀…」
、今すごかったね。一発で倒すなんて」
「う、うん…この刀すごい力が籠められてるんだな…」
「その刀の力もすごいけど自身が持つ力がその刀の力を最大限まで引き出してるんだ」
「そうなの?あたしの…力が…」

刀を鞘に戻しジッと自分の手を見つめる。

…?」
「ううん。何でもない。大広間はすぐ近くだし行こう」
「…う、うん…」

戸を開ければ大広場。
は戸に触れた瞬間…

『アハハハハ…!ハハハハハ…!フフフ…ハハハハハハハ!』

狂った笑い声が聞こえてくる。
その声は少女で聞き覚えのある声。

「っ…!」
「今の…笑い声…?」
「…紗重…?」
「まさか…この先に紗重が…?」
「わからない…だけど…(あんな状態の紗重なら…可能性はある…)」
…大丈夫…?僕が開けようか?」
「ううん、大丈夫。いざとなったらこの刀が…あるから」

意を決しは戸を開ける。

「…中は思ってたよりは大丈夫そう…」
「だけど…やっぱり嫌な気で満ちてる…」
「大丈夫?…顔色…悪いけど…」
…顔真っ青よ?手、掴まって」
「ありがと…ちょっとこの部屋…嫌な予感がする…」

は差し出された澪に手に掴まり樹月に肩を支えてもらいながら歩く。
少し歩き続けると澪が足に何かが当たり足元を確認しようとするが部屋全体が白黒の状態で嫌な気で全体が満ち何があるのかちゃんと確認できない。
すると雷の光によって足元に何があるのか見える。

「ッ!!」

生々しいほどの切り傷。殆どの死体が原形を留めていないほど切り刻まれている。
辺りを見渡しても死体の山。

『アハハハ…ハハハハハハ…!アハハハハ…!』

そして部屋の中央に立っているのは狂った笑いを浮かべ続ける血濡れの着物を来た少女…

「…紗重…」

は刀を鞘から抜きゆっくりと紗重に近づき始める。

「駄目だ!!近づいちゃ駄目だ!」
「紗重…どうして…そんな事を…」

樹月の呼び止めもには聞こえていなかった。

「駄目…紗重…駄目…」
『アハハハハハ…!ハハハハハハハ…!!』

ゆっくりと紗重に近づくの目の前に現れたのは縄の男。
すでに人間だったのかもわからないほど禍々しい姿で他の怨霊とは比べ物にならないほどの嫌な気で満ちていた。
だがは立ち止まることなく近づいていく。

!!」

樹月はの名前を叫んだが声はまったく届いていなかった。
澪が射影機を構え縄の男を写すが…

「…射影機が効かない…?!」
「それほど危険な怨霊なんだ…楔は…とにかくを止めないと…!」

樹月がの近くに行こうとした瞬間、誰かがの腕を掴み抱きかかえそのまま走り出す。

「樹月!天倉澪!こっちだ!!」

嫌な気に満ちた部屋の中ではいったい誰がを助け二人の名前を叫んでいるのはわからないが樹月は聞き覚えのある声だった。

「…まさか…」
「樹月君!早く!」
「あ、あぁ…」

そして外に出て坪庭階段を上りその場に座り込む。

を助け出したのはの双子の兄、楓だった。
どうやらは気を失っているようだ。

「やはり君だったんだね。楓」
「貴方が…のお兄さんの楓さん…?」
「楓で構わない。俺も澪と呼ばしてもらうからな。こんなことになってんだろうと思って様子見に来てよかった」
「さっきの様子がおかしかったけど…あれはどうして?」
「きっと紗重に引き寄せられたんだろうな。紗重を助けようとする想いと紗重がを呼び寄せた想いが繋がってあのままだとは死んでた」

楓は気を失っているの頬にソッと触れる。

「そうか…楓、君が来てくれて本当に助かった」
「まぁ…あの状況だと樹月や澪が行った所で共倒れだった。が連れて行かれたら次は澪、お前が引き寄せられる所だったからな」
「私?」
「お前は八重に似ている。何度かこの村でも間違えられたろ?」
「えぇ。そりゃ、何度言っても話を聞かない白髪腹黒野郎とかその他諸々に」
「ハハハ、性格も八重そっくりだな。こりゃ、樹月も大変だろう?」
「まあね…」

澪を見て楓は楽しそうに笑うが樹月は苦笑する。

「とにかく今、危険なのは澪、お前と姉の天倉繭。そしてだ。紗重に引き寄せられる可能性が高いから気をつけろ。
には少し術をかけとく。これでさっきみたいに紗重に引き寄せられることはないだろう。澪はまぁ、大丈夫だろ」

楓はの額に触れ何かを小さな声で唱える。

「ふぅ…これで大丈夫だろう。次、楔を見た瞬間、コイツ…キモイって言いそうだな」
「確かに縄とか服が脱げかけとかちょっとMっぽい」
「プッ。もそれ言いそうだな。澪…と仲良くしてやってくれ。村から抜け出せた後も…」
「…?うん…楓君も仲良くしてね」
「…あぁ…じゃ、樹月。を頼んだ。俺はもう行く」

楓は立ち上がり数段階段から降りる。

と話して行かないのかい?」
「今、ここで俺がと話したりしたら全てが狂ってしまうからな。話すなら夢の中だけでいい。俺がここに居たってことは言うなよ」
「わかった。気をつけてね」
「お前等もな。おっと…澪!」
「何?」

楓はどこからか懐中電灯を取り出し澪に投げそれを澪は受け取る。

「さっき懐中電灯壊したんだろ?やるよ」
「ありがとう。楓君…」
「普通は壊れねーけどな。次は気をつけろよ?じゃあな。また会えたらまたその時」

そのまま二人に背を向け楓は階段を降りて行き樹月と澪の視界に映らなくなる。
ザーッと雨の音が静かに響く。

「楓君は…を助ける為に…この村を調べてるのかな…?」
「…たぶん…そうだろうね…」
「楓君にとって…は大切な存在なんだね…楓君がを見る目…優しかったから…」
「うん…昔から楓はそうだったから。誰よりも…何よりも大切にしてたから…を…姉であるを…」
「え?楓君ってお兄さんじゃないの?」
「この村では先に生まれた方が弟、妹で後に生まれた方が兄、姉って風に言われてるから。だから楓は弟だよ」
「そうだったんだ…」
「ん…」
。気がついたの?」

ずっと気を失っていたが目を覚ます。

「…あれ…ここは…?」
「坪庭階段だよ」
「そう…あたし…また迷惑…かけたみたいだね…ゴメン。紗重に…呼ばれてた気がして…いつの間にか正気を失ってた。だけど…今はもうそんなことにはならない気がする」 「うん。もう…きっと大丈夫だよ。さ、行こうか。とりあえずあの大広間には近づかない方がいいだろうしこの上の部屋に行こう」
「そうだね。繭さん…どこにいるんだろう(そして…楓も…あの大広間で誰かが…あたしを助けてくれた…樹月じゃなくて澪でもなくて…誰かが…)」
「本当、お姉ちゃん。どこなんだろ…ったく…あの変態女…」

ボソッと澪が低い声で何かを言う。

「(聞かなかった事にしよ…)さて、上にあがりましょうか」
「そうだね。それにしてもここに来ると懐かしいな」
「何が?」
が紗重と八重に追い掛け回されてた事」
「うっわーイヤーな過去を思い出しちゃったわ…」

幼い頃、よくは樹月と楓と黒澤家に遊びに来ていた。
すると紗重と八重が目を輝かせてで遊んでいた。
は必死の形相でこの屋敷内を逃げ回っていた。
今となっては思い出。あの頃に帰れたら幸せなのかもしれない。
紗重があのような状態になってしまったから。

―だけど時は進んでいる…だから今、自分に出来ることを一つ一つやっていきたい…―