「これとこれをはめたら鍵が開くはずっと」

黒沢家の門の前で双子地蔵の鍵をはめる。
門の鍵はカチッと音と共に開く。

「開いた。それじゃ、行きますか」

いよいよ黒澤家に。
三人は嫌な予感がして仕方がなかった。






紅キ雫ニ滲ム蝶 04







門をくぐり橋を渡る。
目の前に数段階段がありその前の門を開くといよいよ黒澤家内に入る。

「ね…この橋の近く…何かいない…?」

がずっと不審に思っていた事を樹月と澪に伝える。

「…確かに…何か変な気配は…」
「二人とも…あれを!」

樹月が水面を指した。

「本当だ…」
「何あれ?人…?」

水面に浮いているのはどこからどう見ても人間だ。

「水死…か…うわー死体腐りそう…」
、それは今言うべきことじゃ…」
「だけど本当じゃん」
「確かにそうだけど…どうせなら目立たないように死んだらいいのにとか」
「逆にそれの方が酷いよ、樹月」
「だけどあの人って言うか…あの死体洋服着てるみたい。着物じゃなくて」
「どうやらこの村に迷い込んできた人みたいだね」

三人はそのまま橋を渡りきろうとした瞬間…
ザバッ…。
水の音が響き振り返る。

「今の音…何?」

先ほどまで水面に浮いていた人の死体がない。

「ちょ…まさかこのパターンってどう考えても怨霊として出てくるってわけ?!」

澪が射影機を構える。

。僕の後ろに隠れて」
「う、うん…」

樹月はすぐにの前に立ち辺りを見渡す。
も不安そうに辺りを見渡すが水面に浮いていた人の死体は見たらない。

「どこにも居なさそうだけど…」

射影機を構えていた澪が射影機を下ろしたと同時に…

「キャア!!」

の足元から先ほど浮いていた人が怨霊と化しを攻撃してくる。

!!」
「はな…せって!この…!」

必死に抵抗するが中々体が思い通りに動かせない。
怨霊に生気を奪われ始めているようだ。

「くっ…!!(ヤバイ…!このままじゃ…!)」


ギュッとが目を瞑った瞬間、から眩い光が放たれる。

『うっ!!あぁーーっ!!!』

怨霊はその光をまともにくらいから離れる。

「ぐっ…!ハァハァ…!」

は胸元を抑えそのまま座り込んでしまう。

!」

樹月はすぐにの隣に座り込み背中をさすった。

「これを飲むんだ」

樹月は透明な液体が入ったビンを渡すがはビンを持つことすら出来ない。

「生気をかなり奪われたんだね…澪!その怨霊は任せた!」
「わかった!何が何でもを助けてよ!腹黒白髪少年!!」

澪はさり気なく樹月に暴言を吐き射影機を構え怨霊と対峙する。

、少し僕にもたれかかって」
「っ…ハァハァ…!」

は苦しそうに喘ぎながら頷き樹月の肩にもたれかかる。
すると樹月はの腰に手を回し支えてあげる。

、今からこれを飲ませるかちゃんと飲み込むんだ。少し飲み辛いかもしれないけど我慢して」
「…っ…!わかっ……た…!」

苦しそうに喘いでいるは口を力を振り絞り開く。
樹月はゆっくりとビンの中の液体をの口に注ぎ込む。
ゴクッと喉をならし注がれた液体を飲み干す。
すると息苦しかったのも治まり体全身が楽になった。

「もう大丈夫だよ」

ゆっくりと樹月がの体を起して上げる。

「ありがとう…樹月…」
「ううん。僕もを危険にさらしてごめんね」
「大丈夫…さっきの水で楽になった。本当…ありがと…」
の役に立てたらのならよかった…まで失うのは嫌だったから…」
「樹月…」

はすぐに睦月のことなのだろうと感じた。

「お二人ともーさっきから私も居るって事、忘れてない?」

射影機と懐中電灯を手に不機嫌そうな表情で二人を見ているのは澪。

「み、澪…!」
「さっきの怨霊は倒したのかい?」
「誰がにちょっかいを出してる間に」

青筋を立てながらニッコリと黒い笑みを浮かべる澪。

「嫉妬かい?澪…女性の嫉妬ほど醜いものはないね」
「樹月君に嫉妬なんてする必要なんてないから。は渡さないって言ったでしょ」
「そうだよね。すでに勝敗は決まってるからね。僕の勝ちって」

樹月はギュッとを抱き寄せる。

「…!?」
「さっさとから離れたら?樹月君。先に進めないじゃない。それにも嫌がってるし」

「そんなことないよ。僕とは幼馴染だからこれくらいは平気だよね?」
「あ、あの…二人とも…落ち着いて…つーか!こんなさっきまで怨霊が居た橋の上でダイアモンドダストを繰り広げるなって!!
それに早く行かないと繭さんに何かあったら大変だし!!!」

は樹月と澪の黒い笑みに挟まれ恐怖を感じずにはいれなかった。

「…いっその事どうにかなっててほしいかも…あの野郎…」
「み、澪…?」
「ううん、何でもない。さ、。手に掴まって」
、僕の手に掴まっていいよ」

樹月と澪に同時に手を差し出されどちらの手を取ればいいのか迷う。


「澪、その汚れた手を引っ込めてくれないかな?」
「そっちこそ。さっきまで幽霊だった人がに触るなんて汚らわしい。下心見え見えよ」
「あ、ふ、二人ともありがとう」

再び笑顔の睨み合いが始まりそうだと感じは二人の手に掴まり立ち上がる。

「さ、黒澤家の中に入ろう。楓はたぶん黒いから怨霊が怖がってどっか行くかもしれないけど繭さんは危ないから」
「うん…」

それぞれの想いを胸に黒澤家へ続く橋を渡り段差を上りゆっくりと門を開く。

「…!」

黒澤家の扉を開こうとした瞬間、は再び頭痛に襲われる。
今までとは比べ物にならないくらいの頭痛。
ギュッと目を閉じ何とか堪える。

「っ…!いった…!……!治まった…?」

少しずつ痛みは和らぎゆっくりと目を開くとそこは黒澤家ではなかった。
何もない、誰も居ない真っ白な世界。
辺りを見渡しても先ほどまで一緒に居た樹月も澪も居ない。

「…二人がいない。それに…ここ黒澤家じゃないし…」


名前を呼ばれは慌てて振り返る。
その声はずっとが捜していた楓の声だ。

「楓…?どうしてこんな所に…?」

振り返ったその場所に居たのはの双子の兄の楓。

「今、わけあってお前に会いに行けねーから直接夢の中に話しかけてる。さっき怨霊に生気奪われて危なかったろ?」
「見てたの?」
「直接見てたわけじゃねーけどな。わかるから…お前のことなら。で、これをお前に渡しとく」

楓は短剣をに手渡す。

「…これ…何?」
「短剣。見りゃわかるだろ?」
「そうじゃなくて…!それくらいわかるわ…!」
「その刀で怨霊と闘え。この村人はほとんど完全に闇に呑まれてる。お前が触れただけじゃその闇は祓えない。むしろお前が危ないからな」
「じゃ、紗重も駄目なの?もう…間に合わないの?!」
「紗重ならまだ間に合うが…紗重はその刀で斬るしかない」
「どうして…?」
「この村が滅んだ理由は紗重だ。不完全な状態で儀式を行ったからな。大償が起きたんだよ。とにかく紗重を助けようと考えてるならその短剣で斬れ」

楓から受け取った刀をギュッと握り締める。
儀式…それ自体は何をするのかハッキリとは思い出せないが良くないものだと言う事はハッキリとわかっている。

「樹月が触れただけで助けられたなら睦月も触れるだけで助けられるだろう」
「え…?睦月も…!睦月もこの村にいるの?!」

楓の口から出た名前は意外な人物だった。
睦月。が思い出した限りでは樹月の双子の弟で双子御子に選ばれ儀式を行ったが儀式は失敗しそのまま命を落とした。にとって大切な幼馴染だった。

「あぁ。大償が起きる前にアイツはあの場所へと落とされた。闇に呑まれてることはない。樹月もだから闇に呑まれていなかったんだ。アイツも…大償の前に…」
「うん…だけど樹月は今はもう人間だよ…だから睦月も助けてあげないと…」
「その意気だ。少しずつ思い出してるみたいだな。この村のこと」
「うん。ね、楓はずっと覚えていたの?この村のこととか…」
「…あぁ…」
「そっか…」
「怒ってるか?」
「ううん。何か事情があったんだろうし」
「そうか…ありがとうな」

楓は少し切ない表情でほほ笑む。

「ね、楓はどこにいるの?」
「黒澤家だ。俺を捜しに来たんだろ?だけど一つだけ言っといてやる。天倉繭が先に見つかったなら俺はもう黒澤家にはいないって思え」
「え?どうして…?って言うかどうして繭さんのこと…」
「それは置いといて…そろそろ目覚まさないといけねーぞ。樹月と天倉澪が心配してる」
「ちょっと!楓!」

が楓の服の袖を掴もうとした瞬間、楓はスッと消えていきの意識も遠ざかっていく。

―楓…アンタはいつも…大切なことを言わないであたしの前から…居なくなっちゃうよね…楓の…悪い癖…―

「…ん…」
!?」
「…樹月…澪…?」

気がつくと樹月と澪が心配そうな表情でこちらを見ている。
ずっと樹月がを抱きかかえてくれていたようだ。
ゆっくりと体を起こす。

「ビックリした…突然、倒れるから…」
「いったい…どうしたんだい?」
「うん…楓に…会った…夢の中で…それで…」

右手に持っていたのは夢の中で楓に渡された短剣を見つめる。

「この短剣…もらった。これで…闘えって…紗重もこれで助けられるって…言ってた」
「楓…何か他に言ってた?」
「え?」

は一瞬ドキッとする。
楓に睦月はまだこの村に居ると言う事を言うべきなのか言わないべきなのか。
きっと今、樹月に言ったら樹月はそのことが気になって下手したら怨霊に襲われてしまう。
だったら黙ったままこっそり一人で睦月を捜して助けてあげればいいと思った。

「ううん。他には何も。とにかく今は黒澤家に入らないと。まだ楓も居るみたいだから」
「そう。のお兄さんまだ黒澤家の中にいるんだね」
「うん。だけど…」
「だけど?」
「何でもない。急ごう」

ギュッと短剣を握り締め黒澤家の扉を開く。