「…睦月…僕はこれで…いいのかな…?」

バンッ!!

「やっほー!!樹月!!!!」

シリアスムード全開だった樹月が居る蔵の扉を元気よく開ける。

、開いたんだね。扉」
「うん!さ、行こう!」






紅キ雫ニ滲ム蝶 03







自縛から解放され人間の姿に戻った樹月も加わり三人で黒澤家の鍵を開ける為に双子地蔵の鍵を探し始めた。
だけどずっと樹月は思いつめた表情のままだった。

「樹月?どうしたの?さっきからボーっとして」

少しだけ記憶を取り戻し始めた
自分がこの皆神村で生まれ育てられたと言うこと、そしてこの村に辿り付いた時最初に出会った少女、黒澤紗重と
今、一緒に居る白髪の少年、立花樹月と幼馴染だと言うことを思い出した。
そして樹月の双子の弟、立花睦月が儀式によって亡くなっている事も…
しかし儀式を詳しく思い出すことがまだ出来ない。

「あ、ううん。何でもないよ。だけど…ここが本当に皆神村とは…」

久しぶりに蔵の外へ出て村を見た樹月は変わり果てた皆神村に驚いていた。
ずっと明けない夜。闇に包まれた村。生きた人の気配がしない。

「あたしも驚いた。ずっとこんな真っ暗だから…この村の事を思い出して余計に…これが皆神村だなんて…」
「ね、はこの村で生まれ育ったんだよね」
「うん。思い出した限りでは」
「じゃ、どうしては現代で普通に生きてるの?どこからどう見ても…生身の人間だし…この村が地図から消えて何百年も経つんでしょ?」

澪のさり気ない疑問に自身も疑問に思い始める。

「…そう言われてみれば…あたし…何で普通に生きてんだろ…え?!もしかして今、あたしは数百歳ですか?!」
「う〜ん…僕も少し不思議に思ってたんだけど…楓も普通に生身の人間だったし…まるで時間が止まったかのように」
「時間が…止まったかのよう…」
「じゃ、は肉体年齢は15歳で実年齢は数百歳ってとこなんだね」

ニッコリと笑顔でとても残酷な事を言う澪。
彼女は完璧に黒い。

「澪…乙女にそう言うことは言っちゃダメでしょー」
「え?誰が乙女?」
「いや、話の流れ的にあたし」
「……ハッ……そうだね、ゴメン。
「…………(今、さり気なく鼻で笑われました…澪…黒い…)」
「とにかくその事も気になるしまずは澪のお姉さんを捜す事と楓を捜さないと。楓ならきっと何か知ってるはずだから」
「うん。あ、そう言えば…澪のお姉さんって名前何?」

は澪のお姉さんの名前を聞いていなかったことを思い出し聞いてみた。

「天倉繭だけど」
「繭さんか…どんな人なの?」

ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
妹である澪がこんなに黒いんだ。
きっと姉もすごいんだろう。色んな意味で。

「一言で言えば…変かな?」
「そ、そうなんだ…」

は苦笑しながら返答する。
実の姉を変と一言で説明する澪。
は内心、

(澪も十分変だよ…黒いし…)

と思っていたが恐ろしくて口には出来なかった。

「澪も十分変だと思うけどな」

ニッコリと爽やかな笑顔でが恐れて口に出来なかった事をサラッと言う樹月。

(い、樹月…そうだった…君も…黒かったね…!!)

「そんな事ないよ。私からすれば髪は白いのにほほ笑みはすっごく黒いし性格も真っ黒な樹月君の方が十分変だよ」

澪もニッコリと可愛い笑顔で樹月に反論する。
はガタガタと二人のやり取りを見て震えていた。

(だ、ダイヤモンドダストが…!!って言うかあたしの身の回りに居る人ってどうしてこんなに黒い人ばっかり!?
楓も黒いし…樹月も…澪も…紗重は…あれは何か違う…紗重はある意味恐ろしい…そんな覚えが…そう言えば…八重ってどんな人なんだろ…)

八重のことは紗重の双子の姉であり澪に似ていると言うこと以外思い出せない。

「ね、樹月。八重ってどん………」

先頭を歩いていたは後ろから歩いていた樹月に聞こうと振り返った。
すると…

> 「ハハハ…」
「フフフ…」

樹月と澪の腹黒笑み対決(命名、)が繰り広げられていた。

「…ダメだこりゃ…」

思わずはハァーッと溜息をついた。
すると最初に来た鳥居の近くに双子地蔵があった。
その双子地蔵の上に紅い蝶が舞っていた。

「あ、あれ…二人とも!あれ!」

は蝶が舞っている双子地蔵を指差して樹月と澪にも知らせようと振り返った。
しかし二人はまだ腹黒笑み対決(命名、)を続けていた。
両者一歩も譲らずと言った所だ。

「おい!そこの腹黒コンビ!!あの双子地蔵見ろっつってんだろ!!」

遂にもブチ切れた。
突然、大きな声を出したに少し驚き二人は一斉にの方を見る。

「あの双子地蔵の上、蝶がいるんだけど。もしかしたら鍵があるかもしれないから探してみよ」
「そうだね。調べて見る価値はありそうだ。どこぞの腹黒で八重にそっくりな奴に気を取られてて気付かなかったな」
「そうね、全然、気付かなかった。どこぞの腹黒白髪野郎に気を取られてて」

(まだやってるよ…つーか…どっちも腹黒いから!!!)

…どっちも腹黒いってどう言う意味かな?」
「え?!」

心の中で思っていたことを何故か樹月にバレている。

「本当、樹月君と何かと一緒にしないでよ、。射影機で殴るよ」

そして何故か澪にまでバレている。

「……さってと!!鍵を探そう!!鍵!!早くしないと繭さんが危険な目にあってるかもしれないし楓も…楓は大丈夫だろうけど!!」

ジリジリと迫ってくる腹黒コンビに恐怖を感じ話を逸らした。半ば無理やり。

、次…澪と同類にしたら…どうなるかわかるよね…?」
「う、うん…大丈夫だから…!(わ、わかりません!何がどうなるのかわかりません!!って言うかわかりたくないわぁ!!!!)」
「ね、鍵ってこれ?」

いつの間にか澪が双子地蔵の近くを調べていた。
そして手には鍵を持っていた。

「それだよ。あともう一つ。この村のどこかの双子地蔵にあるはずだから探してみよう」

鍵を手に入れ澪と樹月が歩き始める。
はぼんやりと鳥居を見つめていた。
すると視界が白黒になり鳥居の前に着物姿の双子が現れる。

…ここからじゃ無理みたいだ…たく…逃がしはしねーってか?』
『出口はここしかないのに…!』
『いや、もう一つだけある。そこに行ってみよう!』
『うん!』

その双子はと楓らしき少年だ。

「…!」

ハッと気がつき目の前には双子は消えて視界も元通りになっていた。

「…今のは…楓とあたし…?」
ーどうしたの?」

少し離れた場所から澪がの名前を呼ぶ。

「ううん。何でもない!」

も急いで二人の元へ駆けつける。
少し歩いて色々な双子地蔵を見かけたが先ほどの様に紅い蝶が地蔵の上で舞っているのはなかった。

「ん〜中々ないな。鍵」
「もう少し行った所に神社があるから…確か…神社の近くにも双子地蔵があったはずだからもしかしたらそこにあるかもしれない。行ってみよう」
「はぁ…何だかお姉ちゃんの為だけじゃ絶対にこんな面倒なことしてなかったと思うわ。のお兄さんを捜す為なら頑張れるけど」
「…澪…もしかして繭さんと仲悪いとか?」
「ううん。ただ単にベタベタと引っ付いてくる辺りがうっとおしいって言うだけだから」

再び笑顔で澪は残酷な事を言う。

「あ、アハハ…そう…なんだ…(何だか…繭さんに会うのが怖いような…と言うより繭さんと再会した澪が怖いって言うか…)」

すると大きな鳥居と長い階段が遠くから見え始め角を曲がるとそこにはぼんやりと光を放つ紅い蝶が舞っている。その下には双子地蔵。

「あ、あれかな?」
「待って!何かいる…」
「え?」
!後ろ!!」

双子地蔵に近づいたは後ろを振り返ると竿を持った男と松明を持った男が立っていた。
しかし男達は生きた人間ではないとすぐにわかった。怨霊だろう。

「ギャー!!!うっわー!!キモッ!!顔近いって!!!」

突然の出来事過ぎて思わずはその場に座り込んでしまう。

!」

澪がの名前を叫ぶと同時にカシャッと言うシャッター音が響き竿を持った男と松明を持った男は何か苦しみ出す。

「…な、何…?」

苦しみだした怨霊はそのまま消えてしまった。
樹月が急いでの近くへ駆けつける。

!怪我はない!?さっきの怨霊たちに生気を奪われたとかはない?!」
「う、うん…樹月が名前を呼んでくれなかったら危なかったかも…ありがとう」
「よかった…さ、掴まって」

お礼を言われた樹月は少し照れながら手を差し出す。

「うん。ありがと」

は樹月の差し出された手に掴まり立ち上がる。
二人はお互いの顔を見つめ合いいい雰囲気だ。

「お楽しみのところ申し訳ないんですがー鍵…見つかったんだけど」

鍵を手に澪が冷たい目で二人を見る。

「え!?あ、あぁ!本当?!これで鍵が開けられるね!」
「本当、よかった。早く黒澤家に行こう」

頬を赤らめは先に進む。
後から樹月と澪もついて行く。

「樹月君って…のこと好きなの?」
「え?うん…そうだね…昔からずっと…大切な人だから…」
「ふーん…」
「まさかとは思うけど…僕との間を邪魔しようなんて考えてないよね?」
「八割は思ってるけど二割は応援してるわ。頑張ってね、樹月君。は渡さないから」
「ハハハ…いつからは澪のになったのかな?僕とは幼馴染だから絆はずっと固いよ」
「女同士の友情の方が絆は強いのよ。樹月君」
「じゃ、勝負だね」
「そうね。樹月君にはは渡さないから、絶対に」
「ハハハ…」
「フフフ…」

先を歩いていたは再び始まった腹黒笑み対決(命名、)に恐怖していた。

(だ、ダイヤモンドダストが…!ブリザードが…!だ、誰か助けて下さい…真っ黒腹黒コンビが怖いです…)

いよいよ澪の姉の繭、そして全ての真実を知っている可能性のあるの楓を捜す為、黒澤家へと向かうのだった。