「あーもう…無理…」
「うだうだ文句言わない…ってかそっちの相手は人形だから適当に引き付けてくれたらいいだけじゃない」
「無理…あたしお家帰りたい…」
「何が…お家帰りたいよ!ってか座りこまずに薊の相手をしろー!!!!!」






紅キ雫ニ滲ム蝶 14







繭を追いかけ立花家へと向かうと澪。
立花家へ向かうには桐生家を通っていかなければならない。
その為、桐生家へ来たのはいいのだが桐生家が滅んだ原因とも言える双子の少女、茜と薊がと澪の行く手を阻む。
茜は霊で薊が人形。
射影機が効くのが茜のみで必然的にが人形である薊の相手をしなくてはならなくなる。
人形とわかっていても不気味なのには違いない。
明暗の廊下で茜と薊と対峙している二人だがはその場に座り込んでしまった。

「…あーもうやだ…薊の相手しろって言ったって殴ってくるんだよ?!無理無理…あたし、暴力反対!」
「何が暴力反対よ!散々、小刀振り回して大暴れしてたくせに!!!」

澪は一人漢前に茜に立ち向かっている。
そんな中、は座り込んでしまっている。
するとが相手していた薊は必然的に澪の方へと向かう。

「ギャーッ!こっちに来たじゃない!!親友のピンチだって!!さっさと戦えー!!!!」
「無理です。あたしは愛と勇気だけが友達ですから!」
「真顔で某正義の味方ア○パ○マンみたいな事言ってんじゃないわよ!!
あーもう!戦わなかったら樹月君に呪ってもらうわよ?!」
「…………」

その言葉を聞いた瞬間、は立ち上がった。
そして鞘から小刀を取り出した。

「薊ー!!!お前の相手はこのあたしだー!!!樹月に比べたら全然怖くないんだから!!!」

先程とは打って変わって戦闘体制の
よほど樹月が怖いのだろう。
澪は作戦成功と言わんばかりの笑みを浮かべが薊を引き付けている間に射影機で茜を攻撃し続けた。
二人のコンビネーションで茜と薊は一時的にその場から去った。

「はぁはぁ…!疲れた…」
「本当…疲れた…ってかがもっと早く戦ってくれたらこんな事にはならなかったと思うんだけど…?!」
「だからあたしは愛と勇気だけが友達ですから!」
「もういいっつーの!!!!」

嫌な気配は感じない為、と澪はその場に座り込んで一息ついた。
怨霊との戦いにはやはり肉体的にも精神的にも疲労が激しい。
ただでさえ不気味な村に閉じ込められてしまっているのだ。
精神的にだいぶ追い詰められつつある。

「ごめんね、。巻き込んで。お姉ちゃん捜すのまで手伝ってもらって…」
「何で澪が謝るのさ。前にも言ったじゃん。あたしも楓を捜してるし…この村の儀式の事とか楓は何か知ってるみたいだから
あたしも無関係じゃないみたいだし…それにこれはあたしが選んだことだから。この村を救いたいって思ったのはあたしが選んだことだから」

真っ直ぐとした力強い瞳。
その瞳を見るとやはり楓とは双子なのだと改めて実感した。

(考えてみれば私…の過去とかあまりよく知らないや…儀式とかこの村の事は書物で大体わかったけど…
と楓君は…いったい…何者なんだろ?双子御子じゃないのかな?…でも考えてみればと楓君以外は男女の双子って居ない気が…)

澪の中でふとした疑問が生まれた。
何故、この村にはと楓以外の双子は皆、同姓なのだと。
恐らく他にも同姓ではない双子も居たのだろうが表立って目立っているのは同姓の双子。
だが、にも楓にも何か力がある様に思える。
同姓ではない双子だからこそ何か秘密があるのだろうかと考えた。

「澪?」
「え?あ、ごめん。ボーっとしてた。そろそろ行く?」
「あたしはいいけど…大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと考え事してただけだし。行こう」

立ち上がりパッパとほこりを払う。
澪は心の中で決意した。

と楓君が何者であっても私は二人を絶対に裏切らない。親友として…二人を守りたい…)

新たな決意を胸に澪はと共に人形の間へと向かった。
人形の間は不気味な雰囲気で飾られている人形がさらに不気味さを強調させている。

「うっわ…趣味悪っ…」
「それ言っちゃ駄目だよ、澪」

とりあえず奥へと進む二人だが足取りは自然と重くなる。

「あれ…」
「…大丈夫…人形だよ」

奥に立っている茜と薊そっくりの人形。
一瞬、本物かと疑ってしまうくらい禍々しいオーラが漂う。
少しずつ近づいていくとある異変に気付く。

「…この人形…」
「うん…これ…」

数歩引いてと澪は声を揃えて叫んだ。

「「首がねぇっ……!!!」」

そう、二体の人形は片方の首がない。
首以外にも両腕もない。

「うっわ…生々しい…てかなんかこの人形他の人形よりも禍々しいんだけど…」
「動いたりはしないから大丈夫だって…とりあえず射影機で撮っちゃおう」
「はぁ…」

パシャッと音が部屋に響き渡る。
すると写真には仏間が写りこんだ。

「仏間…とりあえず行ってみよっか」
「そうだね。ここにも長居したくないし…」

と澪は足早に仏間へと向かった。
桐生家は他の屋敷よりもやはり薄暗く古い感じで不気味さも一番だ。
黒澤家も不気味と言えるが黒澤家は明かりがついているだけマシかもしれない。
仏間に着くと何か声が聞こえてきた。

「…隣の部屋かな…?」
「あ、。あそこから覗けるみたい。射影機で何か写るか試してみるね」

そう言って澪は隣の部屋を射影機越しで覗く。
パシャッという音が響き渡る。
耳を澄ますと鍵が開く音が聞こえてきた。

「…あ、何か写りこんだよ」
「…この人…善達だ…」
「善達?誰それ?」
「…茜と薊のお父さんで桐生善達。隣にはもう居ないみたいだけど何か置いてってるかもしれないし行ってみよう」
「あ、ちょっと!」

先へと進んでいってしまうに澪はため息をついて追いかけた。
善達が居た場所はあかずの間。
どうやら先程まで開かなかったが善達のおかげで入れるようになった。

「あ、人形の設計図って…もしかしてさっきの人形の間にあったあれの?」
「なるほど…部品を集めてこれの通り作れば仕掛けは解ける…って感じかな?」
「みたいだね。射影機も反応してくれるしさっさと部品集めて立花家に行こう」

は設計図を手にあかずの間を先に出た。
澪は少しその場に立ち尽くした。

(何だろう…すごく不安になる…この村を出る時には…本当にみんなで帰られるの?
誰かが…傷付かずには居られないんじゃないか…そう思ってしまう…)

ギュッと手に持っている射影機を握り締める。

「楓君…どこにいるの?」

全ての答えは楓が知っているのではないかと思う。
不安になる思いは抑えきれないが今は進むことしか出来ない。
そう言い聞かせた。