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回り始めた運命の歯車…
後戻りは出来ない。
もう誰にも止める事は出来ない。
紅キ雫ニ滲ム蝶 13
「そんな…鍵はかかってたのに…どうして?!」
黒澤家に閉じ込められた繭を助けに行った優汝と澪は混乱していた。
鍵が閉まったままなのに何故か繭の姿はない。
とりあえず手にしていた鍵で開け中に入る事にした。
「優汝…これ…」
澪は置かれていた書置きに気づいた。
どうやら繭の字のようだ。
そして優汝はその書置きに触れた。
「…!」
その瞬間に何かが頭の中で流れ込んできた。
『…澪…遅いな…はぁー優汝ちゃんにも早く会いたいな…』
―…繭…?―
うっすらとする意識の中、繭の姿がハッキリと見える。
どうやら閉じ込められていた時の出来事のようだ。
『本当は…こんな所で一人で居たくないのに…澪…早く来て…』
―繭…やっぱり…一人は寂しかったんだ…―
『澪…どうしてだろう…どうして離れて行っちゃうんだろ…ずっと一緒だって行ったたのに…』
優汝は少しずつ繭の様子がおかしくなってきている事に気づいた。
『ねぇ…八重…どうして…あの時…私を置いて行ったの…?今も…こんな所に私を一人にして…』
―…!繭…じゃない…さ…え…?―
どんどんと繭の雰囲気が変わってき始めた。
何故か呼ぶ名が澪ではなく八重へと変わった。
『行かなきゃ…八重は…きっと先に行ってるんだ…樹月君にも…謝らなきゃ駄目なのに…』
―紗重…!?どこに…行くの!?―
姿は繭だが意識は紗重の状態である繭はいとも簡単に座敷牢を抜け出した。
ぼんやりと見る事しか出来ない。
これは過去なんだ。
抜け出した繭を…紗重を止める事は出来ないんだとわかった優汝はハッと気がついた。
「っ…!」
「優汝…よかった…急に黙り込むから…」
「ご、ごめん…ん?」
優汝は机の上に置いてある一枚の写真を手に取る。
するとその写真には驚くべき人物が写されていた。
「…樹月…?」
「力って…僕が楓がここに来る事を予想した事?」
蔵では重い空気になっていた。
樹月の表情も楓の表情もかなり真剣な顔つきだった為だ。
ひらりと双子地蔵の周りに紅い蝶が舞っていた。
「あぁ、それ以外にもあるだろ?優汝から受け継いだ力」
「…………」
「お前はどちらかと言うと頭を使った戦術の方が得意だからな。未来の事を感じたり霊力が高まったりと…
まぁ、他にもあるんだがまだ使えないみたいだな…それが優汝に解放されて得た力だ」
楓の言葉を聞いて樹月は納得したような表情をして笑った。
「なるほど…だから楓がここに来るのを感じとった訳か…これも君の思惑通り?」
「…まぁ、そう遠くない未来で起こる事の為にな…俺はこれから優汝と接触を試みる。
っつっても会えるのは立花家だろうけど…どうせあいつ等は天倉繭を追いかけて行くだろうしな…」
まるで楓自身も未来が見えているかのように優汝と澪がどこに向かうか口にした。
「楓、いいの?全てが狂ってしまうって…言ってなかった?」
「言っただろ?状況が変わったって。さっきお前が倒れた時に力に目覚めかけたろ?
あれが完全に覚醒したらこの村の闇は二度と払う事が出来ずこの村に居る俺達は完全に逃げ出す術を失うからな…」
ゆっくりと瞳を閉じ楓は状況を樹月に説明した。
そして樹月もゆっくりと頷いた。
「それで…優汝の力の覚醒を抑える為にも君が行くんだね。…君は本当にいいのかい?きっと優汝は…君と…」
「いいんだ。それが…俺の望みだからな…それに俺とアイツの力で此村が助かるんだぜ?
その後はお前達は優汝と一緒に暮せばいいじゃねーか。紗重も八重も…そして睦月も」
楓の口から出された名前に樹月は驚きが隠せなかった。
バッと楓の方を見た。
「どうして…そこで睦月の名前が出てくるんだい…?」
樹月はまだ知らなかったからだ。
睦月の魂はまだこの村に在るという事を。
楓はやっぱりかと言う表情をした。
「その様子じゃ聞いてないみたいだな。睦月の魂はまだこの村に在るんだよ。もちろん千歳も」
「そうだったんだ…優汝が僕にずっと隠していたのは…この事だったんだね…」
「アイツ…隠し事下手なくせに妙に気を使うからな…馬鹿だな」
ハハハと笑う楓。
すると樹月も温かい笑顔を浮かべていた。
「本当…そうだね…」
「睦月は必ず連れて来てやる。優汝と澪と合流したらもう一度ここに戻ってくるからそれまで樹月、お前はここに居てくれるか?」
「いいけど。君も…もう力が無くなり始めているからと言って…命を粗末にしないでね…一番悲しむのは…優汝だから…」
樹月の気になる言葉を聞き楓は数歩進んだ所で立ち止まり振り返った。
「わかってるよ…お前も無理するなよ…」
楓の言葉に樹月は頷いた。
そうするとニッと笑い楓は蔵を後にした。
樹月は蔵から出て空を見上げた。
決して明ける事のない闇に包まれた空。
「もうすぐ…この空が明けるんだね…優汝の手によって…」
樹月の視界を通り過ぎるかの様に紅い蝶がスーッと飛んでいった。
「どう言う事!?急がないといけないとかお姉ちゃんが残ってた場所に樹月君の写真がある事とか!」
閉じ込められた繭を助けに行った優汝と澪だが何故か消えてしまった繭。
しかし過去を見てしまった優汝は紗重と意識がほぼ完全に同調している事に気づいた。
そして置かれていた樹月の写真と繭の書置き。
全て紗重の意識が行った行為。
そんな状態の繭を一人にさせる訳にはいかないと感じた優汝は詳しく事情を話さず走り出した。
「澪…言いづらいんだけど繭はほぼ完全に紗重と意識が同調してる…このままじゃ…繭だけじゃなくて澪も危ない…!」
「どうして!?紗重とどうしてお姉ちゃんの意識が同調してるの!?二人が…似てるから?!」
流石の澪も驚きが隠せなかったようだ。
走りながら喋っている為か自然と声が大きくなっている。
「それだけじゃない!依存してるから…」
「依存…?」
「繭は澪を…紗重は八重を…一緒に生まれた存在。だからこそ離れていくのを恐れてる…ずっと一緒に居る方法を探し続けた結果が…」
優汝が言おうとした言葉の続きが澪にもわかった。
「…まさか…儀式…!?」
「そう…紗重の中で時間は止まったまま!大償が起きてしまった時からずっと紗重の中での…ううん…この村自体の時間が止まってる…!
だから紗重は自分に似ている繭と意識が同調して八重に似ている澪と儀式を行おうとしてる!何としても繭を…紗重を止めないと!」
そして黒澤家の橋を渡り切り黒澤家から出た。
坂を上りき上を見上げると橋を渡っていた繭を見つけた。
「お姉ちゃん!!!」
澪が必死に繭を呼び止めるが繭は気づきもせずフラフラと歩いていく。
そして繭の後ろをつけている女がいた。
「ギャー!!!首折れ!!!キモッ!!つーか、マジでキモイよ!!!」
「首折れてる!!!ギャー!!!首折れ!!!!首折れ!!!
って言うか首折れって何度も言ってるとクリオネって聞こえてくるよ!?」
「本当に!?首折れ首折れ首折れ…クリオネ!!!本当だぁー!!!
って言うか口で言わないとわかりにくいから!!!!」
こんなにも二人はギャーギャーと叫んでいるにも関わらず繭は気づかずにフラフラと歩いていってしまった。
冷静に戻った優汝は繭の向かった先を見た。
「澪…あそこ…立花家だ…」
「立花家って樹月君の?」
「うん…でも立花家って確か開いてないと思うし桐生家から行くしかない気が…」
先程まで首の折れた女を見てギャーギャーと騒いでいたわりに急にシリアスな雰囲気になれる二人はある意味すごい。
そして二人は立花家へと向かう為に桐生家へと向かった。
「桐生家か…」
桐生家の扉の前で優汝は大きく溜息をついた。
ほぼ完全に記憶を取り戻した優汝はもちろん桐生家の事も思い出していた。
―桐生家―
優汝達が幼かった頃には既に滅んでしまったと言われている。
桐生家には双子の少女、茜と薊が居た。
しかし二人も双子巫女に選ばれ儀式を行った。
そして薊を殺してしまい一人生きてしまったと言う罪悪感を
ずっと感じ続け精神的におかしくなってしまった茜を見ていられなかった父、桐生善達を作ったと言う。
何故、人形を作った事が桐生家が滅んでしまった原因になったかはわからない。
優汝も樹月達と遊んでいた時に足を踏み入れた事が何度かあった。
霊とは言えとても小さな少女の茜と薊。
無邪気な笑みを浮かべ話しかけてくれる。
しかし優汝は薊に違和感を感じていた。
そう薊は躯、つまり人形である。
そしていくら可愛い少女であり無邪気に話しかけてきても触れてしまったら生気を奪われてしまう。
茜も薊の人形を前に完全に思い込んでしまっているのだろう。
本物の薊が帰ってきたのだと。
だからこそタチが悪い。
「優汝、大丈夫?」
「うん…大丈夫。行こう」
重い扉をギィィィッと音をさせながら開けた。
そして桐生家内に足を踏み入れたと同時に声が聞こえた。
『どうして殺すの?』
『コロサナイデ』
少女達の声が聞こえてくる。
恐らく茜と薊の声だろう。
「…行こう」
「うん…」
ギュッと手を握り締め首吊りの人形の部屋へと足を踏み入れた。
不気味な人形が吊るされている。
『クスクス』
『クスクス』
そして優汝と澪の前に双子の少女が立っていた。
「っ!」
澪は射影機を構えたが優汝が射影機を持っている手を下ろさせた。
双子の少女はとてもそっくりで黒く長い髪、そして前髪で顔があまりハッキリと見えないのがまた不気味だ。
「茜…薊…」
そう、二人が茜と薊。
『クスクス…優汝が来てくれた。お友達連れて来てくれた』
『クスクス…優汝ガキテクレタ。オトモダチツレテキテクレタ』
躯である薊の方がかすかに声が高い。
茜の方が声が低めで人間の霊だとわかる。
『クスクス…』
『クスクス…』
不気味な笑いを浮かべながら茜と薊は奥へと消えていった。
「ふぅーっ…」
茜と薊が消えていったと同時に溜息をついた。
「優汝…さっきの二人…」
「あの二人が茜と薊。見たまんま双子。片方は人形」
「どっちがどっちだか見分けがつかないわね」
「うん…でもわかるのは声が低い方が茜。たぶん…あの子達とも戦わないと
いけなくなるかもしれないからその時は澪が茜を倒してね」
「何で…」
すると澪は物凄く面倒くさそうな表情をした。
「あーそこまであからさまに嫌そうな表情されるとあたしも困るから。
じゃなくて…だって射影機利かないもん。薊の方には。人形だし」
「面倒ね…人形の方、捻り潰しちゃ駄目?」
「うん。駄目に決まってる」
爽やかな笑顔で物騒な事を言った澪に対し優汝も爽やかな笑顔で即答した。
「とりあえずここにいても仕方ないしさっさと桐生家から出よう」
「そうね。お姉ちゃんなんかくたばっても死なないだろうけど長時間ここには居たくないし」
「じゃ、行きますか」
正直な話、あまりノリ気じゃない二人だった。
「「はぁー…」」
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