「澪!ごめん、遅くなっ…………」

澪と美也子を残しそして先に真澄を行かせた仏間に遅れてからと樹月も戻ってきた。
そして扉を開けたと同時には驚きの光景に思わず固まった。

「どうしたの?
「あ…うん…見て…あれ?」
「え?」

が指した方を見ると目の前の光景に思わず樹月も驚いた。

『真澄さぁーん!』

ドゴッ!!!
鈍い音が仏間に響き渡った。

『ハハハ…相変わらずいいパンチをしてるな…美也子!』

殴られた真澄はなぜかいい笑顔。
すると美也子はポッと頬を赤く染めていた。
そして澪の様子は…

「あ…澪が真っ白だ…」
「なんだか燃え尽きた感じだね…」
「…うん…」

端の方に座り込んで虚ろな目をしていた。
ドゴッ!!バゴッ!!!
まだまだ鈍い音は響き渡る。
そしてと樹月の思った事は一緒だった。

((全力で逃げたい))






紅キ雫ニ滲ム蝶 12







「み、澪…?」

流石に逃げてしまったら末代先まで呪われそうな気がした為、は澪に近づいた。
名前を呼ばれた澪はピクッと動きの方を見た。

…………おっそーい!!!」
「ご、ごめん!」

反射的にすぐに謝ってしまった。
しかし澪はポンッとの肩を叩いた。

「…澪…?」
「真澄さんに事情聞いたよ…大変だったんだね?樹月君も…」


優しい目でと樹月を見る澪。
その目に二人はホッとした。

と樹月君も仲直り出来たみたいだし点とりあえずここからは二人っきりにしてあげよ。
と言っても…私が居てもあれだからもう周りが見えてないんだろうけど」

チラッと三人は美也子と真澄の方に視線を向けたがあえて何も言わずに立ち去る事に決めた。
ドゴッ!!バコッ!!など鈍い音が聞こえつつも三人揃って爽やかな笑顔でスルーした。
色々と困難が襲い掛かり結構な時間がたってしまったが鍵を手に入れる事が出来た為、
急いで繭の閉じ込められている黒澤家に向かおうとしていた。

「それじゃ、急がないと繭が危ない気がするし急ごう!」
「…………」

と澪が歩き出したが樹月は無言のまま立ち止まった。
不審に思ったは立ち止まり振り返った。

「樹月?」
「…ごめん、。僕は少し蔵に戻らないと…」
「え?」

樹月の突然の発言に一瞬戸惑いを感じた。
すると樹月はほほ笑みながら続けた。

「どうしても行かないといけないんだ…」
「で、でも…」

先程のこともあり少し樹月と離れる事に不安を感じつつある
すると樹月はに近づいてきた。

「大丈夫、少し離れるけど僕はいつでもの傍にいるから…
そうだ。が不安に思うならこれを持ってて?」

樹月がに手渡したのは綺麗な水晶原石。

「これ…?」
「何か危ない事になったらそれをギュッと握り締めて。必ず何か力になるから…」
「…うん…わかった。樹月も気をつけてね」
「うん。それじゃ、また後で」

そう言ってと澪は樹月と逢坂家の前で別れた。

「それにしてもなんだかんだ言って美也子さんと真澄さんって仲良かったね」
「そうね…単にSとMだからな気がするけど…何?羨ましいの?」

ニヤッと少し意地悪な笑みを浮かべながらの方を見る澪。

「べ、別にそう言う訳じゃ…ただなんだかお互いを想い続けたから
怨霊になってからもお互いの事を忘れなかったんだなって…」
「確かに素敵よね…あんなにお互いを大切に想える人がいるって…」
「何?澪は初恋経験あり?」

次は意地悪な笑みを浮かべからかう態勢になったのはだ。
すると澪は少し頬を赤くした。

「べ、別に恋とかじゃないけど…叔父がいるの…私とお姉ちゃんと一回りくらいしか年が離れてないんだけど…
少し憧れてた頃はあったけど…まぁ、当の本人がヘタレな上に女難だし何かしら男に好かれたりね…
もう救いようのないヘタレ人間なんだけど…やっぱり小さい頃は叔父としての気持ちより違う気持ちが強かったかな…」

珍しく澪が頬を赤くして恋愛ごとについて話してくれた。
少しは得した気分になった。

「そうなんだ…少し会ってみたいな…その澪の初恋の人」
「べ、別に初恋の人って訳じゃなくて…あーもう!そういうこそどうなのよ?」

澪をからかっていたら急に話を振られ戸惑う

「あ、あたし?!べ…別にないよ…」
「本当に〜?樹月君とかは?」
「え?だって樹月とは一緒にいた事は多かったけど睦月も一緒だったしやっぱり二人は幼馴染だし…」
「待って…睦月って誰?」
「あ…そう言えば澪には言ってなかった?」

澪に聞かれて初めて気づいた。
樹月の双子の弟である睦月の事をまだ話していなかったのを。
もう当たり前のように共に行動しているだけにほとんどの事は
話しているつもりだったがまだ睦月の事を話しては居なかった。

「あのね、睦月は樹月の双子の弟。弟が居るって事は知ってるよね?」
「うん、話の流れ的に聞いてたらわかったけど。もしかして…二人って儀式を…?」

澪自身も儀式の事については詳しくは知らない。
しかし大体の内容は途中途中で見つけた書物などで見た。
双子の姉または兄が妹または弟を殺す儀式。

「そう…でも睦月は蝶になれなかったんだ。ずっとそれを悔やみ続けて樹月は髪が真っ白になって…」

今でも樹月はその事を悔やみ続けている。
だからこそこの村にまだ居る睦月を助けなければならない。

「でも睦月は蝶になった訳じゃない。だからまだこの村に居るみたいなんだ…」
「そっか…じゃあ、助けてあげないとね」
「うん!」
「で?その睦月君が居たから二人は恋愛対象には見てなかったってわけ?」

うまく話を変えたつもりだったが澪はすぐさま話を戻した。
澪の質問にはドキッとする。

「え?だ、だって樹月と睦月以外に二人の妹の千歳ちゃんと紗重と八重と楓といつも一緒だったから」
「…仲良かったんだね。みんな…幼馴染として…(複雑だろうな…樹月君…)」
「うん、幼馴染だよ。みんな…大切な…だからこそ…助けないと駄目なんだ…」

ギュッと手を握り締めた。
まっすぐな表情をしたを見て澪も決心した。
と共にみんなを助け共にこの村から抜け出そうと。

「それじゃ、行こうか。繭きっと『澪…早く来て!あぁ〜澪!!』って言ってそうだから。一人で」
「うん…絵面的にすっごく見たくないけど行かないと…」

すぐに想像出来ただけに澪は悲しくなった。
自分の姉ながら情けないと。
そして黒澤家に辿りついた二人。

何度来ても不気味さを感じる。
地下から入り途中で忌人と何故か強制的に戦闘になったがの刀と澪の射影機で瞬殺。
そしていよいよ繭の閉じ込められた座敷牢に辿りついたが…

「お姉ちゃん…?」
「そんな…」

二人は目の前で起きている事に驚きが隠せなかった。
閉じ込められていたはずの繭が鍵が閉まったまま姿を消したのだった。

「来たんだね…待ってたよ…」

そして蔵へと戻った樹月もある人物と再会を果たしていた。

「何とか生きてたみたいだな。樹月」

聞き覚えのある声。
不適な笑みを樹月に向けた。

「そっちも。どうしたの?いきなり僕に会いに来るなんて」
「お前こそよく俺がここに来るってわかったな。それもと澪を先に行かせて」
「君の為にもその方がいいかと思って。それで…何かあったのかい?楓…」

そう樹月の目の前に現れたのはずっとが捜し続けている人物である楓だった。
黒澤家で会った時の様に樹月に不適な笑みを向けて話した。

「状況が変わった。これからお前に話すことがあるんでな。お前もその力の使い方をわかり始めたみたいだしな」

姿を消した繭。
姿を現した楓。
何かの力に目覚め始めた樹月。
戸惑いを隠せない澪。
記憶をほぼ完全に取り戻し始めた
それぞれの想いが交差する中、運命の歯車は回り始めた。