「楓ー!」

名前を叫んでも一向に返事は返ってこない。
だが自分以外の誰かが居ると感じていた。

(誰か居るって気がするんだけど…明らかこの感じ人間じゃないんだよね…とにかくこんな所に長居は無用。とっとと楓見つけて帰ろっと)

そう思った瞬間、後ろに何か気配を感じる。
誰かいる。しかし人間ではない…そう感じた。
恐る恐る振り返ると白い着物の少女が立っていた。
その着物は血がべっとりとついていた。

…?」
「…誰…?」








紅キ雫ニ滲ム蝶 01







その少女は口元に笑みを浮かべ少しずつに近づいてくる。

「忘れたの…?貴方と…幼馴染なのに…」

その笑みを見た瞬間、は悪寒を感じる。

「アンタなんて知らない!」

そう叫ぶと同時には再び頭痛に襲われる。

「っ!(こんな時に頭痛って…!)」

頭部を押さえながらは走り出した。

(何かおかしい!!絶対に!あれ人間じゃない…!って言うか血ついたなら洗濯くらいしろよ!!!)

走りながらそんな事を思っていても頭痛は治まらない。

…どうして逃げるの…?また私を置いていくの…」
「知らない!あたしはアンタなんて知らない!!」

少女は走るを追いかける。

は更に全力で走った。

『紗重、今度、外に出たいからこっそり脱け出そう』
『そんなことして大丈夫なの?』
『大丈夫、ばれない様に行くから。ね?』
『うん。約束よ』

脳内に再び白黒の映像が過ぎる。
二人の少女が楽しそうに会話をしている。
一人は雰囲気は違うが今、を追いかけている少女だ。
もう一人は

「…あたし…?」

着物姿のだ。
思わずは足を止める。
いつの間にか頭痛も治まっていた。
振り返ると少女はのすぐ近くにまで来ていた。

「…紗重…?」
「やっぱり覚えててくれたのね。…嬉しい…今日はだけじゃない…八重が帰ってきてくれたんだもの…」
「八重…?」
「それに楓君も…帰ってきたの…?これで…儀式が始めれる…」

紗重の口から出た名前は意外な人物だった。
楓。の双子の兄。今、この村ではぐれてしまいずっと捜している相手だ。

「ねぇ、…これからはずっと…一緒よね…?」

紗重に楓の事を聞こうとしたがそれは駄目だと感じた。
確実にこのままでは危険だと思ったからだ。

「あいにくだけど…そんな得体の知れない怪しげな人と一緒には居たくないんで!!」

そう言っては走り出した。
無我夢中に走り続けた。
来た道を戻ってきてしまい振り返ると紗重はすぐ傍に居た。

「っ…!」
「どうして逃げるの…?せっかく帰ってきたんだから…ゆっくりお話しましょ…?」
「誰がするかって!!だいたいアンタ誰さ!!さっきは何か名前呼んじゃったけど…あたしはやっぱりアンタの事知らないし!!って言うか洗濯しろ!!<」
「フフ…相変わらず…面白いわね…は…昔から変わってない…そんなところも…ずっと好き…」
「うっわー…何だか女の子に好きって言われ慣れん…ってそんなことはどうでもいい!!
いや、あんま良くないけど!何であたしのこと知ってるの?!それに楓も!!楓はどこ!?」
「どうして知ってるかって…だって…貴女は私の幼馴染じゃない。それに楓君ががここに来ているって教えてくれたの。
儀式は俺達が行うって…だけど私は八重が帰ってきたから二人はしないでいいのって言っても楓君は駄目って言うの…も望んでいるの?楓君との儀式を…」

まったくは状況がつかめてなかった。
楓がどこにいるかも紗重はいったい何者なのかも。
そして儀式が何なのかも。

「楓は…どこなの…?」
「楓君ならすることがあるって言ってどこかへ行ってしまったわ…」
「楓…(ったく…あんの<腹黒兄貴…!こんな危険な場所で一人にして!!覚えてろよ…料理、楓のだけ全部焦がしちゃった♪みたいなノリで出してやる…!)」
「さぁ、…八重を一緒に…迎えに…一つに…なる為に…行きましょ…あの場所へ…」

スッと両手を差し伸ばしに近づいてくる紗重。

(ヤバイ…絶対に触られたりしたら死ぬ…!)

ギュッと目を瞑ると

「きゃ、あぁーーーーっ!!!!!!!」

眩い光がの身体から放たれ紗重の叫び声が響き渡り紗重は姿を消す。

「え…?」

何が起こったのかわからないだがとりあえずホッとする。

「真面目に死ぬかと思った…」

ペタンとその場に座り込む。
周りを見渡してもまだ村は真っ暗の闇の世界。
日が昇る気配はない。
楓の姿どころか人の姿すらない。

「…ここどこだっつーの!!!」

ふぅっと一息つき目を閉じる。

(楓…どこ行ったんだろ…それにさっきの子…紗重だっけ…?あの子…知ってる気がする…それにこの村…何だか…懐かしい…そんな気がする…
とにかくこの村から出ないと…あまり長居はしちゃいけない気がするし…とにかく…楓探さないと…本当…楓どこ行ったのよ…)

立ち上がり歩き出すことにした。
ずっと座りっぱなしでは楓は見つからないとわかっているからだ。

「でも…どこから行けばいいんだろ…」

どこに行けばいいのか迷っていたはとりあえず歩き出した。
するとと同じくらいの少女を見かける。
少し紗重に似てなくもないが雰囲気はやはり別人だ。
彼女はきっと人間だろう。

「お姉ちゃん!」

(人…だよね…幽霊じゃない…ちょっと話しかけてみよう…)

は少女に近づき話しかける。

「あのーどうしたの?」
「っ?」

突然、話しかけられ少女は驚いたようで後退る。

「えっと…脅かしたならゴメン…えーっと人間?」
「え…?あ、はい…えっと貴女も…生きてる人ですか…?」
「うん。なーんか…嫌な会話だな…」
「そ、そうですね…えっと私は天倉澪です」
「あたしは。ね、あたしと同じような顔した男見なかった?双子の兄なんだけど…」

は澪に楓を見かけていないか聞いて見た。

「いえ…お姉ちゃん以外に人を見てないんで…えっと私に似た女の子を見ませんでしたか?双子の姉なんですが…」
「えっとー着物着てる?」
「いえ、私と似た感じの服です。茶色の短いワンピースを着ているんですが…」
「そっか…じゃ…違うか…ん〜そんな子は見てないけどな…」

が言っていた人物は紗重のことだ。
澪の雰囲気が紗重にどことなく似ていたからだ。
なら澪の双子の姉の可能性もあると思ったがやはり違ったようだ。

(そりゃ…そうよね…だってあの子…生きた人間じゃなかった…)

「えっとさん」
でいいよ。敬語じゃなくてもいいし。同じ年ぐらいでしょ?あたしも澪って呼ぶから」
「じゃあ、。これからどうするつもりなの?」
「う〜ん…とにかく楓を捜さないと…あ、楓ってあたしの双子の兄ね。…そうだ!よかったら一緒に捜さない?
澪もお姉さん捜してるんでしょ?こんな所を一人で歩き回るなんて危ないし…」

がそう言うと澪は笑顔になる。

「ありがとう!…射影機があるとは言え少し心細かったから」
「そっか。じゃ、一緒に行こう!とにかくさっさと二人を見つけてこの村から出た方がいい。何だか…あんまり居ちゃ駄目な気がするし…」
「まぁ…こんな幽霊だらけの所居たらイライラして来る上にお姉ちゃんは見つからないしもう一人で帰ってやろうかと思うくらいだしね」
「…えーっと澪…?」

突如、笑顔の澪の口から飛び出した言葉に恐怖を感じた

「何?」
「…ううん…何でもない…うん…聞かなかったことにするわ…」

恐ろしくてなんて言ったのか聞けなかった

(澪は…確実に…黒い…腹黒いわ…この子…こんなに可愛い顔して…)

がそんな事を考えているとひらりと紅い蝶が目の前を横切る。

「…蝶?」
「澪…この蝶を追いかけよう…」
?どうしたの…突然…」
「楓が居なくなった時も見たの…紅い蝶を…とにかく追いかけて見よう…澪のお姉さんも居るかもしれない…」
「うん。行ってみよう」

と澪はぼんやりと光を放つ紅い蝶を追いかける。
すると大きな門が見えてきた。

「デカッ!誰だ?!このいかにもお金持ちボンボンでーす♪みたいなアピールをしてる家は!!」
…それすっごくわかりにくいから」

澪にツッコミをいれられながらも紅い蝶を追って行く。
すると大きな門の建っている場所へとやって来た。
門の前には澪とそっくりな茶色の短いワンピースを着た少女が居た。
その少女は門を開けようとしていた。

「お姉ちゃん!」

澪が少女を姉と呼んだ。

(あの子が…澪の…お姉さん…?…紗重に…そっくりだ…にしても…生きてる人間にしては何だか様子が変…澪の呼掛けにも答えないし…)

「お姉ちゃん!!」

澪は門の近くへと駆けて行った。
しかし澪の姉は門を開け中へと入っていく。
澪は急いで駆けたが門は閉まってしまい開かない。
も澪の近くへと駆けて行った。

「お姉ちゃん!ったく!開けろや!ボケ!!!」
「…………」

先ほどまでの心配そうな表情から打って変わってマジ切れ寸前の今すぐ門破壊するぞ!!と言わんばかりの表情の澪。

(…何やら…幻聴が聞こえました…)

「駄目…開かない。どうしたらいいんだろ…」
「う、う〜ん…困ったな…(わーこの人、普通に戻りましたよ。さっきの表情とか言葉とか…何…?)」

は徐々に見え始めた澪に恐れを感じる。

、あれ」

澪が指差す方向に紅い蝶がひらりと舞う。

「蝶…追いかけよう…ここに導いてくれたんだしきっとまた次も導いてくれるよ」
「うん。行ってみよう」

二人は再び紅い蝶を追うことにした。

(どうしてだろ…さっきからこの村を歩き回ってたら…不思議と…懐かしく思える…村なんて…来た事ないのに…ましてや…地図から消えた村なんて…)

そんな事を考えている内に蝶がと澪を導いた場所は蔵の前。

「蔵?何これ!鍵かかってて開かない!!」
、あそこから入れそう」

が蔵の前の鍵をガチャガチャといじっていたら澪が蔵の隣に小さな扉を見つける。

「うん、入ってみってうわぁっ!!」
?!」

小さな扉を開けて入ろうとした瞬間、の叫び声が聞こえ澪は慌てて蔵の前に戻ってくる。
するとが尻餅をついていた。

「大丈夫?」
「あたた…何とか…」

は砂を払いながら立ち上がる。

「……」
「何?」
「蔵の鍵…どうした?」
「え?開かなかったから…最後に思いっきり引っ張って………」
「…………」

二人は同時に蔵の方を見る。鍵は見事に破壊されていた。

地面にはが破壊したと思われる蔵の鍵が粉々の状態で落ちている。

「「…………」」

しばらく沈黙。

「さってと…蔵の鍵も何故か開いたことだし!いったん、開けて見よう!!」
…さらっと流せると思ったら大間違いよ」
「…開けて見よー!!」

は澪が後ろでどんな表情をしているか大体想像がつき恐ろしくて振り向けなかった。

思いっきり蔵の扉を引っ張るが開かない。

「…鍵開けたら普通は扉は開くってもんじゃろうが!!!!」

は怒り蔵の扉を思いっきり蹴る。

「仕方ないからあの扉から入ろ」

澪は小さな扉開けて入っていた。


も澪の後を追った。
扉の向こうは蔵の裏側のようだ。
紅い蝶が舞っている。

「…誰か…居るの?」

少年の声が聞こえ二人は声のする方へと駆けて行った。

「…八重!それに…!どうして…君達がこんな所に!!」

鉄格子の置くから姿を見せているのは白髪の少年だ。

「…アンタは…」

は白髪の少年を見た瞬間、再び頭痛に襲われる。