「ほら、。護身用にこれ」
「…小刀?」
「そ。刀より扱いやすいと思って。の身体能力なら簡単に扱えるだろ」

慶次に渡された一対の小刀。
とても軽くしかし刃の部分は鋭くにも扱いやすい小刀だった。

「護身用にしても…ちょっと危なくない?あんまり人を殺したりなんてしたくないから…」
「大丈夫だって。ちょっと外して斬ればそんな怪我しねーよ」

ハハハと笑う慶次に少しばかり呆れたがなぜか安心した。

「見つけたぞ慶次!!!」

すると大きな声で慶次の名を呼ぶ者が現れた。






幸せを謳う詩 02







振り返ると裸同然の様な格好をした男が立っていた。

「慶次!」

その男の顔を見た瞬間、慶次はサーっと血の気が引いた。
そして振り返ると緑の服を身にまとっている茶色の女性が立っていた。
正直、その女性の方が裸同然の格好をしている男よりもオーラが怖かった。
慶次はその女性を見た瞬間に更に顔色を変えの手をつかんだ。

「っ!け、慶次!?」

突然の慶次の行為には驚きが隠せなかった。
すると慶次はギュッとの手を握りしめた。

「き、来たーっ!!!」

そして一気にの手を掴んだまま走り出した。

「キャッ!!!」

半ば引っ張られる形でも慶次と共に走り出した。
慶次は坂をかけて行き自分よりも大きな刀を鞘から出した。

「ちょ、慶次!何さ!いきなり走り出して!」

体力的に別にしんどくはないがいきなり引っ張られ走り回されたら流石にもビックリした。
すると慶次が振り返った。

「悪い!!今すぐここから逃げるぞ!とにかくもさっき渡した刀で敵倒していけばいいから!」
「…もしかしてさっきの人達って前田利家とその奥さんのまつ?」

慶次の慌てている姿を見ては冷静に質問した。

「あぁ、よく知ってるなって…そっか、の世界では俺とか利の事をなんか教えられるんだよな?」
「うん。にしても随分な数で…」
「なんだ、こっから見えるのか?」

キョロキョロと周りを見渡すが特に人影は見当たらない。
するとは苦い表情をした。

「…見えるから…力で…」

生まれ持った力は身体能力以外に集中すればかなりの遠くの距離まで見る事も可能。
そんな力を不気味がられるのが不安だった。
元の世界に居た頃は慣れたせいかどう思われても構わなかったにも関わらず不思議と慶次には不気味がられたくなかった。

「へぇ〜すっげーな!だったら安心だ。どこに何人いるか教えてくれたら俺も戦いやすいしお前を守りやすいしな!」
「…!」

不気味がられる所かむしろ感心された。
最初に力がある事を教えた時も慶次は決して気味悪がったりはしなかった。
それでいての事を守ると言ってくれる。
とても器の大きな人間なのだろう。

「じゃ、行くか!」

ギュッと大きな刀を握り締めニッと笑いの方を見た。
そしても安心した表情で一対の小刀を握り締め慶次の方を見た。
壮大な家族喧嘩が始まりを告げた。


「こら慶次!遊んでばかりじゃ駄目でしょ!」

高めの澄んだ綺麗なだがかなり怒っている様子がわかる声が聞こえてくる。
おそらくまつの声だろう。
しかしはふと疑問に思った。

(何でかなり遠くにいるはずのまつさんの声が聞こえてくるんだろう…)

疑問に思い考えたが辿りついた答えは一つ。

(…異世界だから気にしても駄目。うん…気にしちゃ駄目。と言うか作者がどうするか一番悩んだところとか言ったら駄目)

ある意味正解である。
この世界でそんな事を気にしていたら身が持たないと直感で感じたは慶次の後に続いていた。

「おう、慶ちゃん!可愛い子連れて喧嘩か?」
「おうよ!とりあえず目指すは京の都を抜け出す事だ!」

走る慶次との後をついて来たのはどうやら威勢のいい町人達だった。

「慶次、この人らは?」
「あぁ、俺の遊び仲間!大丈夫!喧嘩の腕はかなりのもんだぜ?」
「喧嘩って…目的はあくまで逃げる事なんじゃ…ま、いっか。あたしも頑張ろうかな!」

何だかんだと言っても楽しそうである。
突然異世界に飛ばされ最初は戸惑った。
しかしこの世界で最初に出会ったのが慶次でよかったと思える。

(守ってやるなんて…今まで言われた事なかったし…何よりも…)

自分の力を不気味に思わずにむしろ褒められた事に驚いていた。
そして突然、壮大な家族喧嘩に巻き込まれた。
でもすごく楽しいと思えている自分が居た。

「怒ってんなぁ…まつ姉ちゃん…相変わらず怒るとこぇーよな…」

はぁーっと溜息をつきつつ走る慶次。

「でもすっごく美人さんだね。確かに怒ってると怖いけど…にしても…人の数が多すぎる!!」

倒しても倒しても現れる前田の兵。
は少しキレつつあった。

「だぁー!!!もうっ!!!邪魔!!!!」

ついにキレたは刀を使わずに足技を使い始めた。
刀で斬りかかって来る兵達の上を軽く超え思いっきし踵落としくらわせどんどんと兵達を倒していく

「おぉーすんげーな!!その見た目からんなに力があるように見えねーよ!ハハハ!」

笑っているのは慶次だけだった。
周りの兵達は女だと思い油断していた為にダラダラと冷や汗が流れていた。

「そう言う慶次こそよくそんな大きな刀振り回すよ」
「え?これか?別にどうって事ねーよ!おっしゃ!次行くぜ!」
「了解!!」

息の合った二人の戦い方に周りの兵達は唖然した。
次々と前田の兵を倒していくと慶次。

「何ですか!殿方がふらふらと!いけません!」

するとまつのお怒りの声が聞こえてきた。
すると慶次は呆れつつ答えた。

「裸同然の利の方がよっぽどいけないよ」

もその言葉に顔を赤くしながら頷いた。

「何!?それがしの裸が恥ずかしいだと!?」
「自覚ないの!?」

思わずはすばやく突っ込みを入れてしまった。
すると慶次は隣で大爆笑していた。

「つーか…何であんなに余裕で喋ってられるんだ…あの二人…」
「それに仲良く話しながら笑ってるけどやってる事はかなり怖いよな…」
「あぁ、特にあの女の子の方…背は結構、ある方だけど華奢なのに思いっきり小刀使いながら蹴り飛ばしてるもんな…」
「慶次様と互角なんじゃねーのか…あ、こっちに来るぞ…」
「あ、本当だな…俺達じゃ適わないだろうな…」
「あぁ…きっとまつ様にこてんぱんにされるぞ…俺達…」

遠い目をして話す前田の兵二人。
ギュッと刀を握り締め覚悟を決めた。

「どいたどいた!!」
「邪魔しないでっ!!」

ドガッ!!
あっさりとやられてしまった前田の兵二人。
しかもに蹴られた側の方がかなり痛そうだ。

「なんだって俺の事怒るんだ?はっ!さてはまつ姉ちゃん…俺の事…」

ニヤッとした表情で喋る慶次。

「「それはない!」」

綺麗に声を揃えて反論した前田夫婦。
は思わず拍手してしまった。

「アハハ!もう慶次!アンタ本当っ!面白いよ!」
「そー言うこそすんげー面白いと思うぜ?」
「にしてもいいね。こんな風に家出したら連れ戻してくれる人が居て」
「何でだよ?普通はそうなんじゃねーの?俺の場合はあんまり嬉しくないけど…」

その言葉にの表情は一瞬曇る。
でも少し笑って答えた。

「普通はね。あたしの家は逆に捨てられたから。親に売られたから。この力があったせいで」
「…………」

その言葉を聞いた慶次は立ち止まった。
は数歩進んで慶次が立ち止まった事に気づき振り返った。

「慶次?」
「ごめん…俺、知らなくて無神経な事…」

罪悪感を感じたのか慶次の顔から笑顔が消えた。
するとは「ぷっ!」と笑った。

「な、何だよ!笑うんだよ!」
「だって慶次ったら真面目な表情して謝るから!いいの!気にしないで!あたしも正直親だって思っていたくなかったから。
それにあたしにはちゃんと面倒を見てくれた人が居たからそれだけでもう十分すぎたの!それに今はアンタがいるじゃない」

どんなに暗い過去があったとしてもそれは過ぎた事。
だったら気にしたら駄目なんだとは慶次に出会って知った。
たとえまだ会ってほんの少しの時間しか流れていなくとも二人の間に絆はある。

「よく言うぜ!じゃ、!俺の傍から離れるなよ!」
「うん!」

は一度安心できる相手だと知ったら笑顔をよく見せる様になる。
慶次と始めて会った時と違って少しも警戒心がない。
たとえ異世界の人間だとしてもを育ててくれたお爺さんの様に安心出来る人間だと感じたから。

(お爺さん…この力…誰かの為になるなら…あたしは慶次の為に使いたいと今ならハッキリと言える気がする)