修也との関係も少しずつ良くなっていった。
久しぶりにゆっくりと話す時間を過ごしたら妙に照れくさくてまだ素直にはなれない所もあった。
だけど修也は笑っていた。
それは不思議と嬉しく思えた。
全部、秋良のおかげなんだよね。







甘き追憶 08







「やっと夏休みかー」
「何でここにいるの?」
「居ちゃダメだった?」

生徒会室のソファに寝転んでくつろいでいるのは
それをジッと見ている修也。
以前では考えられない状況だ。
自然な雰囲気で会話をする二人。
が修也に心を許している証拠。

「ダメじゃないけどつまらないでしょ?折角、今日で一学期も終わりなんだから遊びに行ったら?」
「いいの。ここにいると落ち着くし…修也と居ると気分的に楽だから…」
「…!」

バサバサと整理していた書類を落としてしまった。
目を見開いたままこちらを見てくる修也には驚いて落とした書類を集めた。

「何やってんの?修也?」
「え、あ…いや…ちょっとぼーっとしちゃって」

の意外な発言に驚いてしまったとはプライドが許さずに言えなかった。
はいと言いながら集めた書類を渡す
その書類を笑顔で受け取る修也。

(本当…坂本様のおかげ…だね)

受け取った書類を机の端に置いて再びソファに寝転んだの前に座り込んだ。
しばらくしてから急にが静かになったので不思議に思った修也が視線を向けるとはうとうとと眠気と戦っていた。
男装をして藤森学園に転校してきてずいぶん時間が流れたがやはり疲れは出るようだ。
そんなの頭をソッと撫でると瞼を擦りながらこちらを見てくる。
以前のならこうして二人で会話をする事も髪に触れる事も許してはくれなかっただろう。

「んー…」
「疲れてるなら寝てていいよ」
「うん…………ね、何でそんな嬉しそうなの…?」

重い瞼を擦りながら修也を見ると修也の口元には笑みがこぼれていた。
の髪を撫でる手も優しく温かかった。
まるで猫のように髪を撫でられる度に気持ち良さそうに目を閉じるの仕草が新鮮だった。

「んーがこんな風に僕と一緒に居てくれる事ってなかったから嬉しいに決まってるじゃない」
「バッカじゃない…」

さも当たり前のように答える修也に思わずツンとした態度になってしまう。

「シスコンも程々にしておかないと彼女出来ないよ」


「んーが居てくれるなら彼女なんて要らないかな」
「…本当…バカ…」

の髪を撫でていた修也はポンポンと軽く頭を叩き向かい側のソファに腰掛けた。

「そう言えば、夏休みはどうするの?家帰ってくる?」
「…家…?しばらくは帰らない…」
「そう」
「…理由聞いたりしないの?」
「んーまぁ、それがの決めた事なら。それにしばらくはって事はしばらくしたら帰ってくるんでしょ?」

ニコッと笑った笑顔で言われ、はうっと気迫負けしてしまった。
今までは気付かなかったがどうも自分もブラコンな所が少なからずある様だ。

(修也のこの笑顔には弱いんだよね…あたし…)

修也との蟠りがなくなって以来、夏休みに家に帰る事を決意した。
ただすぐに帰ると言うのはの意地っ張りな性格上許せなったようでしばらくの間は寮に残る事にした。

「帰ってくる日は連絡してね。寮まで迎えに行くから」
「んーわかった…ふあーぁ…ねむ…」
「僕、もう少し居るから寝たら?」

修也の問いに返事をする前には眠りについてしまっていた。
滅多に自分に寝ている姿など見せなかったがこうも無防備に寝ているのは本当、珍しい事だ。
静かに寝息を立てるを優しい眼差しで見つめる。
するとコンコンと生徒会室にノックの音が響き渡る。

「失礼します、会長」

生徒会室にやって来たのは秋良だった。

「しー」

人差し指を口元に持ってきてソファで眠っているに視線を向ける。
すると秋良も小さな声で「すみません」と謝った。

「どうしたの?生徒会の集まり終わったのに」
「あ、忘れ物しちゃって…」
「あぁ、これ?」

秋良のいつも使っているペンケースを修也は手渡す。
秋良は礼儀正しきお礼を言って生徒会室から出ようとすると修也に呼び止められた。

「坂本様、この後急ぎの用とかある?」
「いえ、もう家に帰るだけですが…」
「じゃ、が目を覚ますまでここに居てあげてくれないかな?」
「え?構わないですけど…会長が居た方がいいんじゃ…」

秋良のその言葉に修也はすごく楽しそうないい笑顔を浮かべた。
一瞬、その笑顔にビクッとしたがいつもの事だと思ってしまった。

「きっとも僕が居るより坂本様が居た方が喜ぶと思うからね。それじゃ」
「あ、会長!」

有無をも言わさないごり押し。
あっという間に生徒会室から出て行ってしまい秋良は眠っていると二人っきりになってしまった。

「…まぁ、いいけど…」

を起こさない様に向かい側のソファに座り本を取り出し続きを読み始めた。
ペラペラと本を捲る事との静かな寝息が生徒会室に響き渡る。
ふっとの方に視線を向けると寝顔に見とれてしまった。

(って何やってんだろう…は男の子なのに…でも綺麗な顔…)

立ち上がりの前でしゃがみ込んで近くでの寝顔をジッと見てみた。

(やっぱり…彼女に似てるけど…は違うって…)

「んん…」

の顔を見ていると人の気配を感じたのか目を瞼を擦りながらこちらを見てきた。

「んー…何…?修也…アンタまた…人の顔…見て…」

どうやらまだ寝ぼけているようで秋良を修也だと思ったようだ。
しかしだんだんと覚醒してくる頭、ハッキリと広がる視界。
目の前にいるのは修也ではなく秋良。

「…………」
「…………」

二人の間に沈黙が続いた。
は最初にウィッグが外れてないかを確認した。
髪はしっかりとショートカット。
ホッと安心したのも束の間…

「…って!寝顔…見た?」
「あ、ごめん…見ちゃった…」
「!!!!!」

カァッと顔が熱くなったのがわかった。
一番見られたくなかった秋良に自分の無防備な寝顔を見られた事がかなり恥ずかしかった。

「アハハ…」

突然、笑い出した秋良にはキョトンとした顔で秋良の名を呼んだ。

「…秋良?どうした?」
「ご、ごめん…がそんな慌てるなんて珍しいなって思って…」
「…!」

秋良のその言葉には益々顔を赤くして俯いた。

「…その…滅多に…人の前で寝たりしないから…寝顔見られるの…慣れてなくて…」

今、顔を上げればきっと真っ赤な顔を見られる。
それだけはどうしても嫌だったは俯いたままボソッと呟いた。

「でも有定会長の前では眠れるようになったんだね」
「え…あ、まぁ…」
「じゃあ、よかった。会長と仲良く出来てるんだね」
「…あぁ。たぶん…秋良のおかげ」

少し照れながらそう答えると秋良はよかったと言った。
はしばらく顔を上げることが出来なった。

(ヤバい…顔真っ赤だ…)

秋良の前ではどうも自分が自分じゃないような気分になる。
恥ずかしさや、戸惑い。

(そんな気持ち…閉じ込めてたのに…)

フッとぼんやりとする視界。
閉じ込めた記憶がうっすらと蘇る。

「っ…」
?」
「…え?あ、何?」
「ううん、何でもない。…よかったら一緒に帰ろ?って言っても寮までだけど」
「…あぁ、いいぜ!」

窓から見える夕焼けを見て感じる気持ち。
それはこれから始まる夏休みに期待や不安。
戸惑いや喜び。
そして何かが変わる予感。