今、思えばあれはきっと一目惚れだったのだろう…
彼女の音楽…優しさ…笑顔…彼女の全てが素敵だった。






一目惚れ







「火原、今日は随分と元気のいい音だね」
「え?そうかな?でもなんか今日は気分がいいからいつもより楽しく吹けてるような気がするな」


それはきっと彼女がいるから…


「本当、今日の火原先輩の演奏聞いてていい気持ちですよ」


彼女が俺が一目惚れした女の子。
名前はちゃん。俺より一つ学年が下だけどすっごく大人っぽくて。
一緒にコンクールに出ることになって知り合った。
いつものように練習しに屋上に行った時に彼女の演奏を聞いた。
透き通るように綺麗で繊細でまるで彼女そのものが音になっているかのようで思わず見とれてしまった。
たぶんそれが始まりだったんだと思う。
今は柚木も交えてよく三人でこんな風に一緒に練習してる仲になれた。


「ね、ちゃんも何か1曲弾いたら?」
「私ですか?そうですね…何かリクエストとかありますか?」
「僕は君が弾くのなら何でもいいよ。どれも素敵だからね」
「火原先輩は何か弾いてほしい曲ありますか?」
「え?そうだな…じゃあ!ロマンス ト長調!」
「わかりました。火原先輩、この曲好きですもんね」


そう言ってちゃんはヴァイオリンケースからヴァイオリンを取り出して音楽を奏でる。
俺の大好きな曲の1つの『ロマンス ト長調』
あの時、初めて彼女の音楽を聴いた時もこの曲だった。




「さーてと!今日もたくさん弾くぞ!」


屋上の扉を開けると音楽が耳に入ってきた。


(あ、この曲…ロマンス ト長調!誰だろ?弾いてるの)


その時、音楽を奏でてた彼女を見て俺は心が強く打たれてとても彼女から目が離せなくなった。
彼女の世界にトリップしたような感じだった。


「……?あの…どうしたんですか?」


演奏をし終えて彼女が俺に気がついて話しかけてきた時に俺は我に返ってすっごく慌てた。


「わぁ!ご、ごめん!盗み聞きするつもりはなかったんだけど!すっごく君の音楽綺麗で!俺、その曲がすっごく綺麗で!思わず聞き惚れてて!」
「…ありがとうございます…私の音楽なんて褒めてくれて嬉しいです。えっと…」
「あ、俺、火原和樹!音楽科の三年!君は?」
「私は普通科の二年のです。一度だけコンクールの集まりでお会いしましたね。あの時はお話する暇がなかったですが」
「そうだよね。君って普通科なのにコンクール出るってすごいよね!あ、もう一人の日野ちゃんもすごいけど」
「あ、香穂子ちゃんのことですか?彼女って本当にすごいですよね。音楽初めてなのにあんなに素敵な演奏できるなんて」
「でも君の演奏もすっごく素敵だよ!普通科にこんなにすごい人がいたなんて俺全然知らなかった!」
「すごい人だなんて私は全然ですよ。そうだ、今度一緒に練習しませんか?さっきの曲を一緒に演奏しましょ」
「お、俺なんかでいいなら喜んで!うわ〜楽しみだな〜君と演奏できるの!」
「私も楽しみですよ、火原先輩の音楽とても興味があるので。あ、練習ここでするんですか?では、私は場所移しますね」
「え?!いいよ!先にいたのはちゃんの方だし!俺が別のとこに行くよ!」
「では、一緒に練習しますか?」
「本当?!いいの?君の練習の邪魔にならない?」
「邪魔なんて全然!せっかくお会い出来たことですし1曲やりましょ」


そう…今、思えばあれはきっと一目惚れ。
彼女の音楽を通して彼女のことを少しずつわかっていた。





「あ、残念だけどさんの演奏を聞けないな。そろそろ行かなくてはいけないな。それじゃ、二人とも。また明日」
「あ、お疲れ様です、柚木先輩。また明日」
「じゃーな!柚木!」
「柚木先輩行ってしまったので言いますがずっと火原先輩に言いたいことがあったんです」
「え?俺に?」
「あの…火原先輩は…好きな人とかいらっしゃいますか?」
「え!?お、俺!?」


彼女の唐突の質問に顔が赤くなってることが自分でもわかった。


「あ、こんなこと聞くの失礼ですよね…ただ…気になって…私…火原先輩のこと…ずっと好きで…だから…」
「え…?」
「ごめんなさい!迷惑なのはわかってます。だけど気持ちだけは伝えたくて…そ、それじゃ失礼します!」


彼女はヴァイオリンをケースに直してその場から立ち去ろうとして俺は慌てて彼女の手を握った。


「っ!火原先輩…?」
「あ、ごめん!急に!でも俺もちゃんに言いたいことがあって!」


今、言わないとずっと言えない気がするから…


「俺、ちゃんのこと好きだよ。初めて屋上で会った時からずっと!ちゃんの音楽聴いた時からずっと!君の音楽も優しいとこも笑顔も全部全部!」
「火原先輩…」
「だから俺とずっと一緒にいて!もっと君の事を知りたい!それで一緒に色んな曲を奏でていきたい!君の音楽が…君が好きだから!」
「わ、私も…火原先輩のこともっとたくさんしってもっと一緒に音楽を奏でたいです!私も…火原先輩の音楽が…火原先輩が好きです!」
「よかった…君と同じ気持ちで…本当によかった…」
「私も…嬉しいです…火原先輩…何か一緒に演奏しましょうか。あの時の約束通り」
「そうだね!じゃあ、『ロマンス ト長調』を!」